メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

小泉進次郎氏が語るポスト平成の国のかたち

ポスト平成を担う政治家が描く22世紀を見据えた新しい社会モデル(下)

小泉進次郎 自民党衆院議員

 消費税の税率はことし10月、10%に上がる。安倍晋三首相は「すべての人が安心できる社会保障改革」を繰り返すが、人生100年の時代、さらなる負担増や給付カットは避けられないのではないか。でも、自民党の厚生労働部会長になった小泉進次郎さんの考えは、「二者択一あるいは両方」ではない道だという。理想論で終わらせずに、めざす国のかたちとは。(聞き手・伊藤裕香子  朝日新聞論説委員)

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町

給付と負担の見直しは必要だが……

――消費税が今年の秋、2度の延期を経て、5年半ぶりに引き上げられます。

小泉 10%に上がると、幼児教育と保育の無償化が実現されます。まずは、前向きにとらえてほしいですね。これまでは「社会保障=高齢者の問題」という認識で、そこに多くの課題があった。加えて社会全体で少子化対策、子ども子育ての環境を真剣に考えていくことが、政治に求められてきた。大きな変化です。

――高齢者が増えていく時代にも、これまでの社会保障サービスは、きちんと提供されていくのでしょうか。「人生100年時代の社会保障へ」の提言にも入っていた、受診時定額負担(注)などの負担増、そしてある程度のサービスの縮小は、覚悟しておくべきだと思いますが。

小泉 社会保障改革を語るとき、伝統的に「給付のカットと負担増の二者択一、あるいは両方」といった作法や常識があるようです。どちらかに深く切り込めば、改革派に認定される、みたいな見方です。もちろん、必要な給付と負担の見直しは不可欠だけれど、誤ったメッセージを投げてはいけない。

 まず、新しいアプローチとして、一人ひとりの行動の変化を前向きなほうへ動かす。インセンティブをさまざまな制度の中に入れ込み、経済や社会の変化に変えていくこと。先にお話した「ねんきん定期便」は、その一例です。

注・受診時定額負担
医療機関の外来を受診するときに、医療保険の自己負担分に加えて、一定の額を患者に負担してもらう考え方。高齢化が進んで医療費全体がふくらんでいること、医療の発達で治る病気が増えるなかで費用が高額になる懸念などから、1回100円などの案が政府内でも繰り返し検討されてきた。「人生100年時代の社会保障へ」では、「国民皆保険制度の持続可能性を確保する観点からは、小さなリスクも大きなリスクと同様の保険給付を行う仕組みは見直していくべきであり、外来受診時に、日常負担できる程度の少額の負担を求めることとすべきである」と記した。

 

消費税は一撃必殺でなければ

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町
――日本の財政は厳しいのに、悠長すぎませんか。

小泉 社会保障費が年1兆円ペースで伸びていくなかで、政策に必要な経費と税収との差は、消費税率をもっと引き上げて埋めるべきだと単純に主張する方が、よくいます。語るのは自由です。税率10%のままで、財政の穴が埋まるなんて、だれも思っていないですから。

 けれども、僕の感覚では、消費税は一撃必殺でなければならない。国民のみなさんに、自分たちにどんな効果や影響があるのかが、わかりやすく一発で伝わらなければ、この先も消費税に頼ることには限界があると思いますね。

――小泉さんは以前から、「成功体験なき消費税の引き上げは、政治への信頼を低下させる」と言われていました。政府は2019年度、増税による増収分を上回る2兆円以上の予算をかけて臨みます。これって、成功体験になりますか。

小泉 成功体験にできるか。失敗体験の上塗りになるか。心配もあります。特に日本にとって初めての軽減税率。慣れるまでには相当、時間がかかるでしょう。キャッシュレス決済でのポイント還元も、理解や支持が十分とは言えません。それでも、成功体験にしなくてはいけない。しっかりとした制度設計、わかりやすい説明責任。世の中の動きをみて、さらにどんな対応が必要かも、見極めなくてはいけません。

前向きな議論が乏しい消費増税

――それにしては、政府の案はあまりに複雑で、消費者目線で対策を考えたとは、とても思えません。

小泉 消費税を上げる目的、増税によって充実されるプラスの側面について、ほぼ語られることなく、とにかく景気への悪影響をいかにつぶすかの議論が真っ盛り。前向きな議論が生まれていない。介護職などは待遇が上がりますが、十分に伝わっていません。

――どういう議論が、必要でしょう。

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町
小泉 平成元(1989)年に消費税を導入してから、今年秋に10%になるまで、平成の30年間かけてこれだけ苦労した税制なんですよ。今後どうするのかは、まさにポスト平成の時代に問われること。

 自分の中では、こう整理しています。昭和の時代は、第1ステージ。社会保障制度が安心の基盤を構築した、国民皆保険の時代。第2ステージの平成は、少子高齢化で人口構造が変わり、バブル経済も崩壊して経済情勢も変化しました。負担と給付をどうバランスさせるのか、消費税導入も含め、模索の時代でした。

 そして、次の第3ステージ、ポスト平成は、人生100年時代の基盤を構築する時代だと思う。いままでの発想のように、単純に給付を切るか、負担を増すかだけではない、より賢いアプローチが欠かせません。AI(人工知能)などの最新のテクノロジーも活用して、新たなツールをきちんと評価して、選択肢を見いだす。

 エビデンス(根拠)をもとに効果を見極められれば、理解と納得のある手の付け方が出てくるはずです。長く働くことが不利益にならない環境も整えることで、社会保障の支え手が増えていく。経済、財政、社会保障にポジティブな構造転換を促す力になります。

いっときのやった感はなくていい

――あまり、イメージが湧かないのですが。

小泉 一人ひとりの健康管理にたとえると、きょう一日の食事を変えただけでは、根本的に良くならず、また元に戻ってしまいます。国づくりも同じ。負担と給付に向き合う正義感にかられ、あるいは改革派っぽい見られ方を得るために、しゃにむに消費税の増税や給付のカットを成し遂げたとします。でも、行動の変化を生む好循環につなげられなければ、むしろ改革の逆回転を生み、ポピュリズムと社会の分断につながりかねない。改革の逆バネを働かせることは、だれにとっても幸せではないはずです。

――それだけで、持続可能なしくみになりますか。

小泉 先ほど、昭和、平成、ポスト平成が、第1、第2、第3ステージだと言いました。過去の否定ではなく、ステージを駆け上がってより良い社会を築いていく段階論のイメージです。未来永劫、この国が続いていくことが、いま僕らが考えなければいけない最大の使命。次の時代にバトンを渡す。いっときのやった感と改革派の看板を求めていては、国民のための政治はできない。そんなものは、なくていい。

自民党厚労部会長を希望したわけ

小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町小泉進次郎さん=2018年12月17日、東京・永田町
―― その使命を果たすために、厚労部会長を希望したのですか。

小泉 3年前に始めた同世代の議員たちとの勉強会は、低所得の高齢者への3万円の給付金がぽーんと政府案で決まったことに、強く反対したことが始まりでした。子育ての政策は財源がないというのに、高齢者の給付金の4千億円はすぐに決まる。これは、おかしいと。

 その後、こども保険などの提言を出してきた経験を通じて、人生100年時代に国民一人ひとりの安心と社会の安定の力になる社会保障改革を実現したい、自分の政治的な資源を集中投下したくなる、やりがいある分野だと、思いました。部会長になってみて、それはまちがいではなかったと感じています。関係議員や厚労省の皆さんの前向きな仕事ぶりと支えがありがたく、思いもより強くなっていますね。

―― 部会長として、心がけていることは。

小泉 これからの国づくり、社会保障の方向性を、部会長一人ではなくチームで動き、考えていくこと。政治の扱う領域は、より高度化、細分化、複雑化、多様化しています。みんなで取り組まないと、手が回りません。

 自民党内の当選回数を重んじる考え方は、以前と比べれば柔軟になっていますが、能力そのものを評価して登用するには、まだ十分ではありません。そこを、自分なりに変えていきたいですね。あとは、外からの目、つまり国民、消費者、ユーザーの立場を大切にすることを忘れずに取り組み、中長期を見据えたビジョンを描きたい。

「自民党をぶっ壊す」ではなく

緑と白の斜めストライプのネクタイは、「厚生労働部会がチームとして取り組んでいる象徴」と言う=伊藤裕香子撮影緑と白の斜めストライプのネクタイは、「厚生労働部会がチームとして取り組んでいる象徴」と言う=伊藤裕香子撮影
――お父さんの小泉純一郎さんは、「自民党をぶっ壊す」と叫んで首相になりました。進次郎さんは、自民党をどう変えたいと考えていますか。

小泉 僕は、逆だね。うちのおやじが言った「自民党をぶっ壊す」ではなく、むしろ自民党が持っている力を日本のために最大限、引き出したい。選挙で選ばれている自民党議員を最大限に使わなければ、もったいないでしょう。自民党も議員も、国民が使うもの。そして、一人ひとりの役割が生かされる国、違いを強みに変える国をめざしたい。

 みんなが同じ「意思統一」ではなく、違いを一つにまとめていく「異志統一」。それこそ、人生100年時代の大事なテーマです。

(撮影:迫和義)