山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
トランプ政権のシャットダウンは移民の国アメリカのアイデンティティにつながる問題だ
2018年12月25日朝。アメリカ合衆国の首都ワシントンDCの玄関口、ダレス国際空港は閑散としていた。常に人々の長蛇の列と熱気であふれかえる、入国審査のフロアに人がほとんどいない。異様な光景だった。
いつもなら、成田空港から約11時間のフライトの後、疲労と睡魔をもてあましながら最低でも1時間、8~9月なら2時間は入国審査を立って待つ。順番が来ると、入国の目的や滞在期間、滞在先の住所、所持金の額、商談の有無などを入念に聞かれる。場合によっては、個別の荷物検査を課され、下着や生理ナプキンの入ったポーチまで開けて中身を出される。顔写真と10本の指の指紋も撮影される。
それが今回は5分も並ばず、審査も一瞬で終わった。指紋もとられなかった(もっとも、私の前のアジア系男性は指紋をとられていた)。
アメリカでは、クリスマスは単なる休暇ではなく、家族が集まって家で過ごす大事な日だ。店やレストランはほぼ全部閉まるし、ホテルの従業員も午前中で仕事を終える者が多い。だが、国際空港であるダレスに人がいなかったのは、アメリカ人の家族行事であるクリスマスよりも、外国人に影響の大きい「シャットダウン」(米連邦政府諸機関の一部閉鎖)が原因だろう。
私の旅行の目的は当初、国立公文書館での史料調査だったが、シャットダウンで国立公文書館が閉館となり、予定を変更せざるをえなかった。全米の58の国立公園などの観光施設も閉鎖され、パスポートやビザの発給業務も止まったことで、シャットダウン中のアメリカへの入国を取り止めた外国人は少なくなかったと推察される。