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普天間基地を引き取ることにあなたは賛成ですか?

沖縄だけではなく全国で一斉に住民投票したらどうか。「我がこと」として考えるために

石川智也 朝日新聞記者

首長による新手のボイコット

 しかし、今年2月24日に投開票と決まった県民投票に対しては、早くも難題が持ち上がっている。

 投開票事務に必要な予算案が市町の議会で相次いで否決され、普天間飛行場を抱える宜野湾市と宮古島市は「投票事務を実施しない」と宣明した。いずれも市長は玉城知事と距離を置く保守系だが、宜野湾市の松川正則市長は「市議会の意思は極めて重い」と、理由の一つにこれまた「民意」を挙げた。

 全41市町村での投票が実施できなければ、投票率と得票数が下がり、「県民の意思」として扱う正統性にも疑問符がつく。

 最低投票率や得票率を設けた過去の国内の住民投票や諸外国の国民投票では、たびたび投票ボイコット運動が起きた。日本で条例に基づく住民投票が初めて行われたのは1996年だが、当初は、特に議員からの「衆愚政治に陥る」「代表制(間接民主制)を侵害する」という否定的見解は根強かった。

 400件以上が実施されたいま、こうした懐疑論はほとんど見られなくなったが、今回の首長による投票事務不執行は新手のボイコットであり、投票権を侵害する愚挙としか言いようがない。

 今回の県民投票は地方自治法に基づく直接請求によって実現したものであり、県条例は、同法の規定によって投開票を市町村の事務と定める。議会が予算案を否決しようとも、首長は法令で義務づけられた事務の実施を拒否することはできない。憲法が保障する参政権を奪われた市民から怒りの声と提訴の動きがあるのは当然だろう。

 松川市長らは、県の広報活動の中立性に疑問があるというなら、適正で公正な運用をまず県に求めるべきだし、辺野古への移設を推進したいのなら、そのように有権者に訴えて多数派を握る努力をすればよいだけだ。投票不参加は筋違いも甚だしい。

拡大沖縄県民投票の啓発イベントでは残り日数示す掲示板が披露された=2018年12月26日

「どちらとも言えない」の選択肢はありえない

 一方、首長や議員からは「二択では民意が表せない」「分断を呼ぶ」との批判も出ている。県民投票条例案の審議で、自公は「やむを得ない」「どちらとも言えない」を問いに含めるよう主張した。

 過去の事例をみても、住民投票や国民投票を意味あるものにするには、公正なルールの下で運動と投票が行われ、十分な情報が提供されたうえで自由闊達な議論が交わされることが条件となる。だがそれ以前に、まずもって適切な「問い」が設定されなければならない。

 社会調査の専門家の間では、日本人へのアンケートは選択肢を奇数にしてはならない、という冗談のような本当の話があるらしい。真ん中の選択肢や「無回答」を選ぶ者が突出して多いという事実からは、二者択一を迫られることを日本人は好まないという性向が確かに伺える。

 だが、高度成長期のように基本的政策について大きな対立がなく、再分配と利害調整が政治の主務だったコンセンサス政治の時代ならいざしらず、針路の選択次第で国や地域の行く末が大きく変わるような賛否角逐する問題で、足して二で割るような政治はあり得ないし、「どちらとも言えない」を選択肢に入れた国民投票や住民投票など海外で聞いたこともない。議場での採決と同様の判断が住民にはできないと決め込むのは、議員の歪んだ選民意識だろう。

知事は県民投票結果を受けての方針を言明しておくべき

 1996年に沖縄で最初に米軍基地をめぐる県民投票が実施されたとき、学生で夏休み中だった私は沖縄本島にいた。

 基地内労働者を身内に抱える人たちの間で県民投票の話題がタブーになっているかのような報道もあったが、私の見聞きした限りでは、そんな空気は感じられなかった。前年の米兵少女暴行事件の記憶が生々しいことに加え、問われたのは米軍基地の整理・縮小と日米地位協定の見直しという、おそらく多くの人が否定しようのないものであり、賛成が89%という結果を聞いても意外感はまったく感じなかった。この問いであれば、仮に本土で投票を実施しても、沖縄県民の葛藤に思いを馳せることもないまま同様に「総論賛成」になったであろうことは目に見えている。

 翌年の名護市の住民投票は辺野古への移設の是非を明確に問うたが、反対多数の結果に反して市長が受け入れを表明し辞任するという「事件」があった。

 諮問型の住民投票は、政治的拘束力はあっても法的拘束力はない。いま県民の一部に県民投票への懐疑が残っているとすれば、こうした過去も一因になっているのではないか。それは、普天間問題という特定のイッシューについての適切な「問い」を提示できなかったことと、執行者だった大田昌秀知事と比嘉鉄也市長が、投票結果を受けてどのような決定を下し政策を遂行するつもりなのか、事前に明言していなかったことによる。

 今回の県民投票は辺野古移設について賛成反対どちらかに「○」を記す択一方式であり、過半数を得た方の結果が有権者の4分の1に達した場合の尊重義務を知事に課している。民意の照射をより求めるために、玉城知事は結果を受けての自らの方針を、あらためて言明しておくべきではないか。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。岐阜総局などを経て社会部でメディアや教育、原発など担当した後、2018年から特別報道部記者、2019年9月からデジタル研修中。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学感染症情報分析センターIDIA客員研究員。著書に「それでも日本人は原発を選んだ」(朝日新聞出版、共著)等

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