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[38]「嫌韓疲れ」と『中くらいの友だち』

伊東順子 フリーライター・翻訳業

国際線の到着口には、韓国人観光客を歓迎するハングル文字の横断幕が掲げられた茨城空港国際線の到着口には、韓国人観光客を歓迎するハングル文字の横断幕が掲げられた=2018年7月

親父同士が対立していても、子どもは隣家の友だちと遊びたい

 12月下旬、韓国から日本の実家に帰省した。中部国際空港から名古屋市内に向かう電車で、向かいの席に韓国人の若い男女が座った。ものすごく楽しそうだ。二人でスマホを覗きこみ、車内の路線図を確認し、満足そうに微笑み合っている。車窓に映る知多半島の穏やかな地形、沿線の風景を指さしながら、興味深そうに話している。週末を利用した短い旅行なのだろう、荷物も少なく身軽な様子だ。

 ともかく、ホッとしていると思う。混まない電車にも、ローカルな沿線風景にも、そして何よりも、思いっきり呼吸ができることに。今、ソウルは大気汚染がひどく、目もまともに開けていられない日がある。そこから解放されるだけでも、海外旅行は嬉しいと思う。

 私自身がホッとしたのは、この電車には吊り広告がなかったことだ。前回([37]韓国人の「反日」ではなく「嫌日」が心配)書いた、韓国に攻撃的だったり韓国人を侮蔑するような見出しの、首都圏の鉄道ではおなじみの雑誌広告が、ここにはない。せっかくの日本旅行がいきなりげんなりするのではと、いつもハラハラしているのだが。

 近年、韓国人にとって日本は、最も人気の旅行先である。一度行けばまた行きたくなる。リピーターは東京・大阪・福岡という入門編の後に、地方都市に向かう。北海道、沖縄はもちろん、名古屋、松山、富山…、ソウルから直行便が飛ぶところは、すべてが対象だ。

 「先日、部署全員で休みをとって、四国に行ってきました。うどんを食べて、温泉入って。ものすごく楽しかった!」

 ソウルでアパレル関係の仕事をする友人の話だ。部署全員で休みとは大胆で羨ましい。が、それぐらいしないともたないほど、韓国社会もストレスフルでしんどい。息抜きなら東京より地方がいい。日本の地方都市のインバウンドにとっても、願ってもない話だ。

 観光客だけじゃなく、留学生も地方に向かう。「国内の無名大学に行くぐらいなら、むしろ留学の方がいい」と考える韓国人は少なくない。それに地方大学なら生活費も安く、韓国国内で下宿するのと大差はない。受け入れ側は学生数の減少を留学生で埋めることに躍起になっている。ここでも日韓双方の利害は一致している。

 そして、新年早々のビッグニュース。大阪市に住む小学4年生の仲邑菫(すみれ)さんが、ことし4月に史上最年少の10歳で囲碁のプロ棋士になるという。日本では、彼女の愛くるしい表情と指し手としての恐るべき実力が話題となっているが、実は彼女も「韓国留学組」だ。韓国のプロ棋士の指導を受けるため7歳から韓国に通い、昨年は韓国に短期留学。韓国棋院での研究生リーグに入り、昇級も果たした。韓国語も両親の通訳ができるほど流暢だという。

仲邑菫(なかむら・すみれ)さん(中央)史上最年少のプロ棋士になる仲邑菫さん(中央)は韓国留学で実力を伸ばした

 「日韓関係は最悪」と言われて久しいが、それは政治外交の話だ。一般国民の動きとしては、うまく連動していることが多い。隣家の親父同士が対立しても、妻は情報を分け合い、子供同士は仲良く遊んでいいと思う。レーダー照射問題での日韓政府の応酬にしても、まずは“当事者同士”で話し合ってほしい。いきなり世論を巻き込まないでくれと思う。

「嫌韓疲れ」と『中くらいの友だち』という雑誌

 それにしても韓国の2018年は大変な年だった。前半は南北、米朝首脳会談などの「明るいニュース」が続いたが、後半に入り畳み掛けるように「徴用工判決」、「レーダー照射問題」が報じられ、日韓両国の間には一気に暗雲が立ち込めた。勇み足で声明を発表する日本政府、攻撃的になる一部マスコミ、フェイクと侮蔑が闊歩するネットメディア。

 「いくらなんでもひどすぎる。大好きだった日本が、もう嫌になってきた」

『中くらいの友だちー韓くに手帖』の4号『中くらいの友だちー韓くに手帖』4号
 ビジネスで日本に滞在する韓国人の友人の発言を聞き、これはまずいと思って前回の記事を書いた。そして、そんな荒れる日韓関係の中、『中くらいの友だち――韓くに手帖』の4号を発行した。
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