元徴用工判決、レーダー照射問題、「和解・癒やし財団」解散……関係悪化は深刻だが
2019年01月14日
「和解・癒やし財団」の解散、韓国大法院(最高裁)による韓国人元徴用工へ賠償判決、日本の海上自衛隊哨戒機が火器管制レーダーを照射されたとされる問題などでこのところ、韓日関係の葛藤は、解決策を見つけることが困難なほど深刻化している。専門家も韓国と日本は長期間対立することになるだろうと警告している。
昨年10月30日に大法院の元徴用工判決が出て以来、韓日局長級協議が始まったが、今のところ特別な解決策は出てきそうにはない。韓国では李洛淵総理が主導して徴用工問題に対する対策を検討しているが、大法院が判決で個人請求権を認めたことに対し、韓国政府がどのような解決策を示しても、韓国の世論を納得させるのは難しいだろう。大法院が今回の判決で日本の植民地統治の不法性を明確に認めたことを、歓迎する声が強いからだ。日本政府の反論には、まったく耳を貸さないという雰囲気さえある。
かたや日本は、大法院判決を「1965年基本条約の根本を揺るがす最大の事件」と受け止め、韓国では想像できないほどの驚きと失望感を示している。韓国と異なり、日本では「徴用工問題は全面的に韓国政府が解決するべきであり、日本企業はお金を出してはいけない」という世論が支配的だ。また、学界をはじめ官民の間には、徴用工問題を国際司法裁判所に提訴をするべきだという主張が強い。
そんななか、強制徴用被害の補償を拒否する日本企業が韓国国内で所有する資産に対する差し押さえ申請が韓国で提起された。菅義偉官房長官は1月7日、具体的な対応策を検討していると明らかにした。産経新聞は「日本政府内にはトランプ米大統領方式の韓国製品に対する関税引き上げを実施すればいいという閣僚発言などがある」と報道した。今や韓国・日本関係は一触即発の状況にある。
最近の韓日関係の冷却状況は、これまでの韓日関係を支えてきた「1965年体制」(韓日国交正常化以後の韓日関係に関する暗黙ルール)の再検討が必要だということを物語っている。 換言すれば、これまで常識として存在した「1965年体制」が弱まり、「ニューノーマル」(New Normal)とも言うべき韓日関係が定着しつつある実情を理解しなければならないのである。
「ニューノーマル」の韓日関係とは具体的にどういう関係か?第一に、過去の問題が国内政治化し、政府の役割の限界を超えるようになった。第二に、経済を中心とした競争が中心となり、協力より競争を優先する声が大きくなってきた。
その結果、国際関係において、韓日協力が重要だという認識よりも、互いに相手を無視しいじめようという現象がしばしば見られるようになった。さらに、韓日両国に漂う不信感、とりわけ日本国内の不信感は、韓国が主張する過去の歴史に対する正当性を、日本社会が受け入れない状況になっている。
「ニューノーマル」時代の韓日関係には幾つかの特徴がある。まず、韓国に対する日本世論が変化した。韓国を批判する声が強まり、今や韓日関係を妨げる大きな障害になっているといっても過言ではない。
このような日本人の「空気」を反映しているのが、日本人と韓国人が互いの国を訪問する人の数である。2017年に700万人を越える韓国人が日本を訪問したのに対し、韓国を訪問した日本人は300万人以下で、かつて500万人に肉迫した訪問者数が半分以下に落ち込んでいる。
こうした現在の韓日関係の姿は、まさしく「激しい日本、冷淡な韓国」という言葉がふさわしい。日本が、韓国の姿勢や態度を批判し、自分たちの道徳的正当性を主張する時代になった。実際、元徴用工判決や「和解・癒やし財団」解散に対し、日本は韓国に「条約や合意を守らなければなければならない」と主張している。歴史問題での要求を繰り返す韓国への嫌悪感や疲労感が、日本の批判的な姿勢に拍車をかけた面もある。
外交における政府の能力が弱まっているのも、「ニューノーマル」時代の韓日関係の特徴だ。背景には、政府が戦略的な判断に基づき国民を説得する能力が衰えたという問題がある。
たとえば、政府が国民の不満を受け入れて「和解・癒やし財団」の解散を決めたこと自体は理解できるが、それによって韓日関係のどう管理できるかは心もとない。慰安婦被害者の名誉を回復する具体的な方策を用意しないまま、財団解散だけを発表をしたのは、韓国政府が世論に屈服したと外部からは見られるからだ。
韓国の歴代政府の対日政策を見ても、国民感情を踏まえつつ、韓日関係の管理に成功するという目的が達成できなかったのが現実だった。世論と市民団体を無視した政策には問題があるが、市民団体と国民世論だけを見る政策もまた、中長期な戦略外交を害するのは自明だ。
ただ、現状については、韓国政府だけを責められない。
日本の安倍晋三政権は支持率維持に政権の命運をかけている。それゆえ、世論の動向には敏感だ。韓国が韓日合意を無視しているという世論が沸騰している現状で、安倍政権が韓日関係解決の出口を模索するために立ち上がることは、期待できないであろう。
韓日関係の改善を目指すプレーヤーの不在も深刻だ。「韓日関係にもっとも強い関心を持っているのは中国である」という言葉が、韓日関係のお寒い現状をよく言い表している。
もちろん日本政府のある担当者は、韓日関係が悪化しないように管理しなければならないと感じてはいる。だが、政府が韓日関係を改善する意思を積極的に持たない限り、そうした人たちも結局のところ、無力感を抱くほかない。また、韓国で韓日関係を解決しようと動くと世論の袋叩きにあうことは、昨日今日に始まったことではない。最近では、韓国外交部内で日本関連の任務を敬遠する現象まで現れた。
以前は、韓日が対立すれば、韓日の「パイプ」を自任する韓国の政治家や経済人が玄海灘を渡り、両国の架け橋の役割を果たした。韓日の葛藤が経済に悪影響を与えるという憂慮が、韓日関係を動かす動力になった。あるいは、韓日関係が悪化すると北朝鮮問題や東北アジアの秩序に否定的な影響を与えるという考えから、両国関係を安定させるように行動するほかなかった。だが、今では政治家は相手の批判には積極的だが、韓日関係の改善には手を出さない状況に陥っている。
日本の状況はさらに厳しい。親韓派のはずの人たちが韓国問題に関心を持とうとしない。それどころか、嫌韓の雰囲気を煽(あお)るような行動さえとる。「韓国の友達はどこにいるのか」と心配になってしまう。日本では近年、韓国は政権が代わると政策も変わるという不信感が強まっており、韓国と距離を置く態度も目立つ。
今後、国際関係はアメリカ陣営と中国陣営とに二分化され、新冷戦の様相が強まる可能性が高い。そのため、アメリカは現在、中国が力をつけることを阻止することを最優先し、友好国にはそのための責任分担を要求するなど、「米国優先主義」を確立しようとしている。米中対立が深刻化する過程で、東北アジアの国々の外交折衝がいっそう熾烈(しれつ)になるのは間違いない。
トランプ大統領は、中国との貿易赤字を経済問題だけでなく国家の安保問題とみなす姿勢を強く打ち出している。また、アメリカの貿易政策の最優先目標を、貿易赤字縮小から産業と科学技術の優位維持に変えた。つまり、中日貿易戦争におけるアメリカの目標は、貿易赤字の規模縮小ではなく、先端技術の開発と保護なのだ。
トランプ大統領はこの目標を達成するため、「技術民族主義」と「デジタル保護主義」を追求している。たとえ中国が輸入を増やして貿易不均衡を解消しても、中国の不公正貿易慣行(外国企業に対する技術移転強要、差別的許認可規制、中国企業の海外投資奨励、不法な知的財産権など)が根絶されない限り、アメリカは中国に対する圧迫を持続する可能性が高い。
トランプ大統領は、昨年、カナダ・メキシコと既存の北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」を締結した。すなわちアメリカは、メキシコとカナダが独自に中国と自由貿易協定を交渉する余地を制限したのだ。 カナダとメキシコを「各個撃破」したトランプ大統領は、次に韓国と日本に対しても、経済と安保を武器に中国を圧迫する戦略に参加させようとするであろう。
一方、中国でよく耳にする「中国は日本のような目にあってはならない」という言葉から、米中貿易戦争に臨む中国人の心を読むことができる。こうした雰囲気を反映してか、中国の習近平国家主席は、絶対に米国に屈服してはいけないという立場を守っている。中国は米中貿易戦争を体制をめぐる戦争と見ている。すなわち、「二度目の冷戦時代」の序幕と認識しているのだ。
日本との関係にも影響が及んでいる。昨年10月26日、習近平主席は安倍首相と会談し、中日関係発展のため、「国際スタンダードの上に競争から協調へ」「隣国同士として互いに脅威とならない」「自由で公正な貿易体制を発展させていく」の3原則で合意した。7年ぶりに中日関係は解氷期を迎えることになったのである。
これまで、中国、日本両国の競争意識と米日同盟が、中日協力を構造的に妨害してきた。だからこそ、昨年の中日首脳会談は、トランプ大統領によって開かれたという説明が説得力を得る。中日関係の劇的な改善の背後に、トランプ大統領の米中貿易戦争に対抗しようとする中国の意図があるのは間違いない。さらに、安定した中日関係を通じて、アメリカからの通商圧力と東北アジアの情勢変化に対応しようとする日本の戦略的な計算も作用している。
中日関係は、トランプ大統領の米国優先主義が強化された2017年6月を境に流れが変わった、という点にも注目しなければならない。日本は昨年、中国との関係改善のために、多くの高官を中国に派遣した。中国からも、アメリカとの貿易紛争が深刻化した昨年5月、李克強総理が日本を訪問し、金融分野の協力強化に合意した。
もちろん、中日関係はまだ越えなければならない課題が多い。米中関係の行方も中日関係に多くの影響を及ぼしかねない。そうだとしても、東北アジア秩序の中で中日が戦略的な利益のために協力できる「理由」は、以前より多くなった。
さらに韓中関係にもおいても、中国は「協力」のジェスチャーを示している。最近、中国が観光客の規制を緩和したように、韓中協力の雰囲気は高まっている。しかし、中国はまだ、韓国からの撤収は可能だという立場を堅持しており、今後も問題が起きる素地は残っている。韓国から見れば、中国の協力ムードから恩恵を得ることもできるが、米中関係の根本的な対立と葛藤は依然、続いており、韓国の悩みは今後も深くなるほかはない。(続く)
※次回「激しさを増す韓日の葛藤。その行く先は?(下)」は15日に「公開」予定です。
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