相澤冬樹(あいざわ・ふゆき) 大阪日日新聞論説委員・記者、元NHK記者
1962年宮崎県生まれ。ラ・サール高校、東京大学法学部卒業。1987年NHK記者職で入局。山口放送局、神戸放送局、東京報道局社会部記者、徳島放送局ニュースデスク、大阪放送局(大阪府警キャップ)、BSニュース制作担当などを経て、2012年大阪放送局に戻り、2016年司法キャップとなる。2018年8月NHKを退職し、同9月から大阪日日新聞へ。
森友報道で局長賞をとった後に記者を外され、NHKを辞め、内幕本を出した思い
「記者は取材できないのが最大の苦痛」
韓国映画「共犯者たち」に出てくる言葉だ。
保守政権がテレビ局の人事に介入し、報道を思い通りに操った実態を描くドキュメント。韓国の公共放送=KBSの調査報道チームは、政権に不都合な事実を報じていたが、解体され、記者たちは取材職を外されて非制作部門へ異動させられる。
チームを率いていた人物が語る。「記者が現場を離れたら取材できない。最大の苦痛です」
調査報道チームが解体されて、韓国KBSでは何が起きたか?
権力批判の番組が廃止され、大統領広報番組が生まれたと映画は描く。その名も「こんにちは 大統領です!」。大統領本人がカメラに向かって「こんにちは、大統領です」とあいさつし、いかに様々な人の言葉に注意を払っているかを語り、最後に「今後も国民の皆様の声に耳を傾け、さらに頑張ることを約束いたします」と締める。
提灯記事という言葉があるが、これはまさしく提灯番組だ。
民主主義を支える報道。その根幹を揺るがすこれほどのことが、お隣の国で起きていたのか。映画を見た方の多くはそう感じることだろう。
だが、ちょっと待ってほしい。我々はこれを「対岸で起きたこと」と呑気に構えていられるだろうか?
政権の御用番組は日本にはないか? ヨイショ報道はないだろうか?
桜島を背景にした安倍首相の自民党総裁選出馬表明を生中継し、スタジオで記者解説したNHK。去年9月の北海道地震では「16人死亡 安倍首相」と、犠牲者数を伝えるのにわざわざ首相名をスーパーに入れる。停電状況や被災地の天気予報まで首相のことばとして伝える。
そして新年、NHKの日曜討論で安倍首相が沖縄・辺野古への土砂投入をめぐり「あそこのサンゴは移している」と事実と異なる発言をしても、司会者は何も問いただすことなく、収録番組なのにそのまま放送に出した。
この一連の流れは、韓国で起きていたことと違いがあるだろうか?
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