地方選挙に出ることのメリット・デメリットを考えたら見えてきたもの
2019年01月16日
今年は4年に一度の統一地方選の年。年が明け、あと3カ月ほどに迫ってくると、なぜか心が騒ぐのは、かつて新潟県知事として地方自治の一隅に身を置いたものの「さが」なのでしょうか。私にはまだとても胸の痛む話題ではあるのですが、今回は「地方選挙に出ること」のメリット、デメリット、そして意義について、体験を踏まえつつ、書かせていただきたいと思います。
もっとも、さすがに今年の統一地方選挙に出る方々は、すでに準備・活動を始めていると思いますので、本稿が実際に役に立つとしたら、実際はそれ以降の選挙ということになります。
昨今、メディアで地方議員の「なり手不足」がさかんに報道されているので、地方議員になってもあまりメリットがなく、デメリットばかりと思っている方も少なくないのではないかと思いますが、はたしてそうでしょうか?
私は、地方議員になることには、結構メリットがあると思っています。ざっと考えて次の4つがあげられます。
①自分の住んでいる自治体の在り方を左右できる
②広い意味で行政・政治の仕組みを理解し関与できる
③人が自分の主張を聞いてくれる
④実は結構お給料がいい
なり手がいないのは、実のところこうしたメリットがあまり知られていないからという部分もあるのではないでしょうか。
以下、それぞれについて、詳しく説明します。
まず当然といえば当然ですが、議員はなんといっても、自分の住んでいる自治体の在り方を左右することが出来ます。そんなことを言うと「一議員では何もできない。」「当選を重ねないと何もできない。」といった反論が聞こえてきそうですが、それがそうでもないのです。
新潟県知事として、地方行政の「場」に身を置いて痛感しましたが、政策立案、つまり新しく何かをするという方向については、大統領制の首長の権限は絶大で、正直議員個人が何か言っても、首長がその気にならなければ「暖簾(のれん)に腕押し」というところはあります(決して私がそうであったというのではありません、あくまで一般論です)。しかし、議員であれば、無所属でも議会やさまざまな委員会などで発言の機会がありますし、直接行政職員に説明を求めることもできます。そして、一般に(あくまで一般論です)行政職員は、そういった場で「ミス」と解されることを指摘されることを嫌います。
その結果、現在の行政執行のあり方についての問題点を指摘すると、かなりの確率で受け止められ、それが満足のいくものであるかどうかはまた別として、なにがしかの対応がとられることになります。
「一利を興すは一害を除くにしかず」(モンゴル帝国をつくったチンギス・ハーンのブレーン・耶律楚材の言葉)で、「○○市を日本一にする」といったプランを作るよりも、行政の窓口で不適切な扱いを受けている一人を救うことを提案する方が、その市にとって有用なことは多々あります。
その意味で、地方議員の仕事というのは、私はとても有意義でやりがいがあると思います。
第二のメリットは、「政治・行政の仕組み」が分かることです。「おいおい、そんなこと、分かってから立候補しろよ」という声が聞こえてきそうですが、三権分立や地方自治の二元代表制といった基本的な知識は、立候補する方は当然勉強しておくべきなのですが、そこから先の、実際の行政・政治がどういう仕組みで意思決定され、どんな力学で動いているかというのは、中に入ってみないとなかなか分かりません。
行政・政治の仕組みが分かってくると、「地方議員」が政治において果たす極めて重要なもう一つの役割に気が付くはずです。それはズバリ、「国政選挙の実働部隊」です。
自民党系会派なら完全強制、野党系でも団体の支援を受けての立候補ならほぼ強制、無所属(独立)系なら自分次第、と会派によるスタンスの違いはありますが、いずれにせよ国政選挙における「組織力」の多くの部分は、地方議会議員が担っています。国政選挙でしばしば聞く「地上戦」の実態は、実際に選挙に携わるまではなかなかピンときませんが、地方議員になると、「地上戦」の意味と意義がよく分かり、自民党系と野党系の「地上戦力」の圧倒的な違いが国内政治に与えている影響を、実感として理解できると思います。
第三のメリットとして挙げた、「人が自分の主張を聞いてくれる」は、自己顕示欲の実現という風に聞こえるかもしれません。でも、議員になってみたいと思う人は、最初から政治についていろいろ考えるところがあり、ほとんどの場合それは、地方自治体内部の問題にとどまらず国政、さらに場合によっては、世界情勢にまで及びます。
そういった政治に対する自らの考えを述べることは、議員になろうがなるまいが、もちろん自由です。とはいえ、まったく政治にかかわらない人が、街頭で道行く人に向かって話しかけても、なかなか聞いてもらえるものではありません(胸が痛くなります…)。ところがひとたび議員になれば、そもそも公式の場で自分の考えを披露する機会が与えられますし、いきなり街角でマイクを握っても、何人かに一人は真剣に耳を傾けてくれます。
それは、そういうことが好きな人、選挙に出ようなどとちょっとでも考える人にとっては、実のところ、結構大きなメリットなのではないかと思います。
最後に少々あざとくなりますが、第四のメリット、実は結構お給料がいい、です。
全国全自治体報酬番付を見てください。全1666自治体の中間値、833番目で月額29万5000円、これに期末手当等加えると、ざっと500~600万円くらいにはなります。しかも議会があるのは年間120日程度で、その他の日は副業(もしくは本業)ができます。これは地方における給与水準として、まったく悪いものではありません。
さらにこの番付の上の順位を見ていただくと、たとえば政令市である新潟市は65万3000円、新潟県議会は月額77万1000円、と、年収1000万円程度(超)となっており、かなり高給な職業といえます。議員は、議員報酬を目的としてやるものではまったくありませんが、しかし、少なくとも生計が立たないようなことはなく、報酬的にはむしろ魅力のある仕事であるのは事実でしょう。
それでは、選挙に出ることのデメリットは何でしょうか。ざっと考えて次の三つ、
①選挙に落ちることがある
②当選後は常に人目にさらされること
③4年に一度の選挙を常に意識しなければならないこと
があります。
ちなみに、選挙落選のコストの大半を占める選挙費用ですが、供託金が政令指定都市で50万円、普通の市で30万円、さらに選挙活動費として最低100万円程度は必要です。供託金は基本戻ってはきますが、正直いって、何のかんの事後処理に消えてしまうので、ともかくも最低限150万円ぐらいのお金は必要(多くの場合それ以上)と考えておく方がいいと思います。
お金以外の、落選による「レピュテーションコスト(評判コスト)」ですが、これはその人の捉え方次第でしょう。落選すれば、もちろんあちこちの関係者に謝らなけれなりませんし(謝りたくなりますし)、まったく関係ない人にもなんだかんだと言われますが、人のうわさも七十五日、しばらくすれば話題にはならなくなります(とはいえ、折に触れて持ち出されたりはしますが)。ここはもう、本人としてどう心の中の落としどころを見つけるかということに尽きると思います。
ただし、なのですが、実のところこの「落選」リスクは、きちんと準備をすれば、ものすごく高いわけではありません。
議員定数の平均は、5万人未満の市で18人、30万~40万人の市で38人、選挙制度はほとんどの場合全員一緒の大選挙区で、通常は定員に対して20%オーバー(20人定員で24~25人、40人定員で48~50人)程度しか立候補しません。そもそも当選する人の方が落選する人より、圧倒的に多い選挙なのです。
当選者の最低得票数が1000を割ることもままみられ、地域票が見込める場所から立候補してきっちり地域をまとめるか、もしくは地域でそれなりに名前が売れていて政令指定都市などの都市部で確実に浮動票が取れるか、いずれにせよターゲットを見据えて目算を立てれば、当選は決して難しくないものなのです。
二つめのデメリット、当選後は常に人目にさらされることですが、これはメリットと表裏一体で、
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