沖縄県民投票「これはもう民主主義を巡る闘いだ」
沖縄には自治権を勝ち取ってきた歴史がある~江上能義・琉球大学名誉教授に聞く
岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー
沖縄には自治権を勝ち取ってきた歴史がある
――国民、本土の人たちの責任もありますよね。
国民にも責任があると思います。民主主義は、国民にとってどのような価値があり、自分たちの生活にとってどのような支えになっているのか、そういう感覚が今の国民にないのだと思います。だから、民主主義というものが、軽んじられてきているのだと思います。
もともと民主主義は、日本の場合、勝ち取ってきたものではありません。それでも現行憲法ができた頃は、日本に民主主義を根付かせようとしていた人たちがいました。
しかし、今の時代、民主主義は生まれた時から当たり前であり、空気のようなものになっています。民主主義がありがたいものかどうかもわからないような人が多いのではないでしょうか。何が何でも、民主主義を守らないといけないという感じが、国民の中に希薄になってきていると思います。
――江上さんは佐賀で生まれ、東京で学び、沖縄で地域研究をしてきました。こういったことへの、本土と沖縄の認識の格差についてどう思いますか。
沖縄の場合、米軍統治下では、アメリカの民主主義の制度を逆手にとって主席公選制などの自治権を闘って勝ち取ってきた歴史があります。それは日本とかなり違うと思います。そうしないと、土地が取られ、どんどん基地が造られていってしまう。もう、他に方法がなかったからです。
しかし、復帰後も基地はなくなりませんでした。日本に復帰しましたが、今も沖縄戦は終わっていないのです。
沖縄の人たちにとって、民主主義は米軍統治下も復帰後も自分たちを守る手段としてありました。今度は、それが日本政府に向けられているかたちになっています。
しかし、時代は変わってきています。私が琉球大学に赴任した1977年当時は、学生たちに反基地感情が強く、本土への反発が強くありました。私も、日本に沖縄が返還されても米軍基地が残ったのだから、怒るのは当たり前だと思っていました。
その後、インフラが整備され、豊かになってきました。日本への復帰を知らない世代が増えてきました。米軍統治下や復帰運動を知る世代が老いて、若い世代が増えてくると、米軍基地と共存しても違和感がないという人たちも出てきます。「何で基地反対運動をするんだ」という人が出てきます。

埋め立てが進む米軍キャンプ・シュワブ沿岸部=2019年1月13日午後、沖縄県名護市辺野古
――昨年12月、沖縄国際大学の前泊博盛教授にインタビュー(参照「安倍政権が続く限り、沖縄の民意は無視され続ける」)した際、同席した大学院生たちは、県民投票は肌感覚でいうと辺野古賛成派が勝つかも知れない、と言っていました。それは、翁長雄志・前知事が亡くなってから四十九日が過ぎてしまったし、辺野古の埋め立てがここまで進んでしまったのだから仕方がないと感じている人が多くいるから、ということでした。
その可能性もあると思います。翁長知事が亡くならなければ、昨年秋の知事選で保守系候補が勝っていたかもしれません。昨年2月の名護市長選でも保守系候補が勝っていますし。
沖縄の中でもあきらめ感があったのは確かです。知事選では、安倍政権が、沖縄独特の県民感情をすでに克服していたと思い込んだから、読み間違えたのだと思います。中央から有力議員を応援演説に次々と送り込むなど前面に出てきて県民の反発を招きましたよね。