沖縄県民投票「これはもう民主主義を巡る闘いだ」
沖縄には自治権を勝ち取ってきた歴史がある~江上能義・琉球大学名誉教授に聞く
岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー
「スコットランド独立」に自分たちを重ね合わせた沖縄メディア
――県民投票は、すべての自治体で実施されるのは困難な情勢です。これが民主主義の姿なのか、と疑問に思う人たちもいます。
私は、スコットランドの独立の賛否を問う住民投票の際、選挙管理委員会のオブザーバーとして現地に入りました。投票が公平に行われるか、世界にアピールするために海外の人たちを招き入れていました。投票所も開票所も自由に入れました。
日本の報道陣も多く来ていましたが、東京のメディアと沖縄のメディアでは、質問が全く違いました。東京のメディアは、スコットランドが独立すれば日本にどういう影響を与えるか、という観点からの質問でした。経済的な質問が中心になるのは当然でしょう。ところが、沖縄のメディアは、自分たちの行く末と重ね合わせて質問をしていました。
自分たちが琉球王国だった時代があるからです。スコットランドもかつて独立王国だった時期があります。つまり、自分たちの将来にどのように参考になるのか、という視点で取材をしていました。
独立を主張し推進してきたスコットランド国民党は、1930年代に生まれた政党ですが、当時はスコットランド人からも相手にされなかった。しかし、スコットランド議会ができ、自治政府の政権をとって独立投票を実施しました。結局、独立反対派が勝ち、主席大臣は責任をとって辞めました。
私が印象的だったのは、投票率が85%と非常に高かったことです。有権者も16歳にまで引き下げて実施されました。「高校生は投票に行かない」「若者は投票に行かない」と言われていましたが、一生懸命、討論会やシンポジウムなどをやって関心を高めた結果、高校生たちの多くが予想に反して投票に行きました。

インタビューに答える政治学者の江上能義さん
――行く末を決める住民投票には、若い世代の投票が欠かせないということと、投開票までに様々なかたちで議論が行われるようなプロセスが重要だということですね。沖縄の県民投票では、スコットランドのような高い投票率や幅広い議論というのは、難しいのでしょうか。
スコットランドの住民投票では、サモンド首席大臣が「住民投票では敗れたが、きわめて多くの有権者が関心を持ち、投票したことは民主主義を前進させた、このことは世界に誇ることができる」と言っていました。私は、この見解の方が賛否の結果より価値があると思いました。よく分かっていない人にも情報を与え、色々な集会や討論会をやり、侃々諤々の議論をした後に非常に多くの人々が投票に行き、結果が出たということです。
沖縄の県民投票も、もっと議論をすべきだと思います。住民投票を拒否する自治体が出てきたことは、逆に議論のチャンスであるとも言えます。
首長も議会が決定したことだからそれは尊重しなければならないという言い分があります。賛成か反対かの2択の選択肢について疑問を持つ首長もいます。そういうことを含めて、議論することが大事だと思います。一部の識者だけではなく、みんなで議論して、投票できる自治体と投票できない自治体が出てくることについて議論することが、県民投票の意義だと思います。
間接民主主義は、議会が民意をパーフェクトに反映していればいいですが、必ずしもそうなるわけではありません。だから直接民主制の住民投票制度が残っています。もちろん、議会の議員にもがんばってもらうことが前提ですが、それでも不十分なところがあるから住民投票制度があるわけです。相乗効果で民主主義を前進させることが大事なのです。
日本だけでなく、アメリカも含め、世界では今、民主主義の危機と言えるでしょう。
沖縄でも、今まであまり考えてこなかった人たちが、基地の問題としてではなく、民主主義の問題、自分たちの尊厳の問題として考えるような空気に変わってきています。国が決めたことには逆らえない、となってしまったら、それはもう全体主義への流れです。だから、そういうことを含めて議論することが大事だと思います。
沖縄の中で、国と県の代理戦争をしているのはおかしいのです。