第6章 「日本語力」で上達する 2:外来語は日本より多用?
2019年01月26日
ヨロブン、アンニョンハセヨ!
今回は、外来語だけで1回費やしてしまおうという試みです。それぐらい使いこなすと便利な半面、落とし穴も潜んでいるからです。その落とし穴にはまったりすると、これまたうれしくて楽しくて。しょせん元々は英語など外国語を「その国仕様」にしているわけですから、たまにはいろいろな問題も生じます。
日本の外来語(カタカナ語ですね)は、ほぼ韓国語でも外来語として定着しています。たいてい、というのは80~90%ぐらいでしょうか…。ともに政治的・軍事的・経済的に米国や英語圏が身近だからでしょうか。日常会話に出てくる頻度は日本と同じぐらいだなあという印象を持っています。
ただ、「アップグレードさせる」など、日本で使われる語よりいくぶん難しい言葉が会話の中に溶け込んでいたり、チョコが好きでたまらない人を「チョコレート・キラー」と言ったり(実際は音引きがないので「チョコリッ・キロ」と聞こえます)、外来語を生活の中に取り込む意欲は、日本以上のものがあるとも思います。
韓国の外来語には、日本語と違う点が大きく言って二つあります。まず、日本語では、ほぼ全部がカタカナ表記されるので一目見て分かりますが、韓国語では直接英語で表記される以外はハングルなので、読んでみないと外来語かどうか分かりません。
もう一つは、元のアルファベットの発音が日本風読みと違い、単語によってはまったく別に聞こえてピンと来ないことがあります。特にバー、カー、サーと、「ア行」で伸ばす音は、ボ、コ、ソと母音が「オ行」のように変化します(日本語の完全な「オ」でなく、あいまいな「オ」です)。音引きは短めか、ほとんどありません。先ほどの「キラー」は「キロ」と聞こえますので、慣れないうちは「今の何? 本当に外来語?」と戸惑うこともあります。
また、「F」は日本語で表記すると「ファ・フィ・フ・フェ・フォ」ですが、ハングルの世界では、「パ・ピ・プ・ペ・ポ」に変化します。
いくつか例を挙げながら説明してみましょう。
ハンバーガー→ヘムボゴ、햄버거
*「ハン」が「ヘム」に。「バー」が「ボ」に
コーヒー→コッピ、커피
*「フィー、fee」が「ピ」に
コンピューター→コムピュト、컴퓨터
*「ター」が「ト」に
インターネット→イヌトネッ、인터넷
*「ター」が「ト」に。最後の「ト」は「ッ」となり発音しません
バス→ボス、버스
*「バ」が「ボ」に
元は発音の構造が違う英語なのですから、お国柄で発音しやすいように定着していくのですね。
「なぜだ?」と騒いでも意味はありません。日本語化したリンゴは「アップル」と表記しますが、英語圏の人にまず通じませんよね。それと同じです。
日韓の言葉を知る米国人に「日韓どちらの発音が英語に近い?」と聞いたことがありますが、「どっちも全然違う!」と一蹴されました。
韓国語の外来語発音の特徴にはいくつかのパターンがあるので日本語と比較してみます。
(1)英語の「a」のうち特にアとエの間のア(æ=アップルの「ア」のような…)は、日本語のカタカナ表記では「ア」だが、韓国語では「エ」
・Hamburger 日・ハンバーガー 韓・ヘムボゴ=햄버거
*「m」の音は韓国の方が忠実ですね。
・Kangaroo 日・カンガルー 韓・ケングゴル=캥거루
(2) 英語の「er」「u」「ur」は、日本語のカタカナ表記は「ア」「アー」が多いが、韓国語では「オ」になりがち
・Burger 日・バーガー 韓・ボゴ 버거
・Bus 日・バス 韓・ボス 버스
(3)英語の「o」「i」「u」は日本語も韓国語も「オ」「イ」「ウ」が多い。
・ E-mail 日・メール 韓・イメイル 이메일
・ Open 日・オープン 韓・オプヌ 오픈
(4)「F」は日本では「ハ行」か「ファ行」だが、韓国では「ㅍp」(パ行)に
・Fax 日・ファクス 韓・ペクス=팩스
・Fan(愛好者、羽根) 日・ファン 韓・ペヌ=팬
・Café 日・カフェ 韓・ッカッペ 카페
「フランス」→「プラングス」 「ワイフ」→「ワイプ」
「ゴルフ」→「コルプ」です。
(5) 語尾など言い方そのものや意味が違う語がある
ファイト!→パイティング!=파이팅!(応援する時の「ファイト!」です)
キラー=(キルロ、킬러)*好きでたまらないこと。「マニア」的なこと
カリスマ=(カリスマ、카리스마)
*日本は良くも悪くも「ビッグ」な感じがありますが、韓国ではけっこう日常的に使います。「雰囲気を醸し出している人」「尊敬できる」という感じでしょうか。
ほかに、食事処「第一ガーデン」を「ガドゥン」と発音するように、gardenのような「~en」の場合、本場の英語の発音に近い表記になります。
ここで注意点をいくつか。第4章で習った「連音化」がここで使われると、戸惑うこともあるでしょう。「インターネットが」という時に、인터넷のパッチム「ㅅ」と「이(が)」が連音化して、「イントネシ」となるからです。
また、例えば「アップグレード」は「업그레이드」と外来語として定着していますが、(グレード、段階、質を上げるという意味ですね)「アップグレードする、させる」という時には、「~시키다(シッキダ、命じる、させる)」という言葉を後に続けます。
ちょっと寄り道㉜ 困った外来語
外来語だけで1話を独立させて詳しくやりたいと思ったのには理由があります。私自身、日本語と共通だと甘く考えていて、実際に痛い目に何度もあったからです。
韓国語の先生との待ち合わせ場所は、たいてい駅の近くの喫茶店やハンバーガーショップでした。
一番最初、「ケエプシで待っててください」と言われたので面食らいました。ケンタッキーフライドチキンだったのです。私は日本では「ケンタ」と言っていましたが、韓国ではみんな「KFC」でした。その発音が「ケ・エプ・シ」なのです。「F」を「エプ」と発音するし、音引きがないので、そう聞こえたのですね。このように、発音が違うし、言い方の習慣まで分からないと待ち合わせもおっかなびっくりです。関西の人がマクドナルドを「マクド」と言いますが、マクドとマックの違いどころではありません。
待ち合わせ場所に限って外来語だらけです。さらに「??」だったのが「ボゴキン」です。日本にもある「バーガーキング」なのですが、Burger Kingが読みの習慣でこんな発音になってしまうのです。
一番びっくりした外来語は、マッカーサー将軍でしょうか。
朝鮮戦争で韓国側が北朝鮮側に攻めたてられた時に上陸し、押し戻した救世主として日本以上に知られています。「MacArthur」ですね。これが「メガド(맥아더)」となるのです。なぜかというと、韓国語の世界では外来語をハングルに直す時、全体の発音を似せるというより、分解して過去の例(=規則)に合わせます。Macはマクドナルドの最初と一緒なので맥(メク)となり、Arthurの「Ar」は「ア」、「th」は「ダ行」で発音します。「メク・ア・ド」が連音化して、さらに「ク」が文中なので濁って(=有音化)、まとめると「メガド」になってしまうというわけです。
同じような原理で英国首相だった「サッチャー(Thatcher)」は「テッチョ(대처)」となります。
ファストフード(fastfood)は「ペスットゥプドゥ(패스트푸드)」となります。
簡単だと思っていた外来語も「要警戒」でした。
外来語特集を続けます。まず、日本語の世界から見れば簡単そうでわかりにくい、三つの「プロ=프로」について。
日本語の「プロ」は普通、「プロフェッショナル」のことですね。韓国語でも同じですが、あと二つ、日本と違う「プロ」の使い方があります。
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