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ニッポンの「食の主権と安全」が売られる!

知らないではすまされない。「食への意識」を国民は高めよ

堤未果 国際ジャーナリスト

次々とかなえられたバイオ企業の望み

 たとえば「食の主権」は、豊かな食文化を持つ私たち日本人が、最も変化をを想像しにくい分野の一つだろう。

新しい酒米「夢ささら」の刈り取り風景=2018年9月28日、栃木県大田原市 拡大新しい酒米「夢ささら」の刈り取り風景=2018年9月28日、栃木県大田原市

 四季に恵まれた日本では、国内で300種以上の米が育成され、どこへ行ってもご当地の美味しい米や野菜、果物が食べられる。だがTPPの発効を受け、今後は国民の食の安全と供給を守るという国家の主権がじわじわと変えられてゆく。

 TPPはバイオ企業の悲願であった。条文にはBIO(世界のバイオ企業1200社からなる団体)の要望を受け、参加国に種子開発者の「知的財産」を保護するUPOV条約(日本、アメリカ、EUなど51カ国が署名)の批准義務などが盛りこまれた。これによってTPP11参加国には、農家による種子採種や交換を禁止する国内法導入が促されることになる。

 TPP11の下準備を進めていた日本(UPOV条約も批准済み)は、すでに率先して国内法改正に着手していた。

 「自家採種禁止リスト」は段階的に増やされ、今月4日に締め切ったパブリックコメント後にも新たな禁止品目が追加される。もともと「原則OK」だったのが、禁止品目の数が増やされることで逆転。現在規制対象は386種で、今後はUPOV条約に沿った「原則禁止」に向かってゆくだろう。実は日本はITPGR条約(自家採種を農民の権利として認めている)も批准しているが、明らかに「農民」より「開発企業」の権利の方が優先されているのだ。

 また、2017年春には都道府県が主食(米・麦・大豆)の種子開発に予算をつける種子法を廃止。地元で開発した公共品種の種子データの企業への無料提供や、生産性の低い稲の銘柄を減らす法律を導入するなど、日本国民の大半が気付ぬうちに、世界のバイオ企業の望みが、TPP発効前に次々とかなえられていった。

食品産業界で拡大する「垂直統合モデル」

 こうした法改正が要求される理由の一つは、熾烈(しれつ)な食い合いが起きている世界の食品産業界で拡大する、種子から農薬、科学肥料に食の流通まで一企業の傘下に収め効率化する「垂直統合モデル」に適応させるためだ。

 種子・農薬・化学肥料メーカーなどがグローバルな市場展開を進める際、各国の地元種苗会社や種子開発のための公共予算、公共品種や種子の多様性は、ビジネスの障害になる。

 そこで、これまでバイオ企業は世界のあちこちでその国の政府に働きかけ、地域で開発された公共種子を守る法律や農家の自家採種・交換を禁止させてきた。その後その国が開発した種子データを手に入れて自社の研究所で遺伝子を組み換え、新しく特許をとった新製品を農薬とセットで売り、巨額の利益を上げるビジネスモデルだ。

 ところが、農薬グリホサートでガンを発症したとして米国で訴えられた大手バイオ企業(旧モンサント社・現バイエル社)が2018年8月に敗訴したことをきっかけに、関連企業株価の大幅な下落や、同社への訴訟件数急増を受け、世界の潮流が大きく変わり始めた。今や遺伝子組み換え食品や農薬に対する消費者の目は各国で厳しさを増し、本家本元のアメリカでも、大手スーパーや食品メーカーが非遺伝子組み換え・減農薬商品に重点を移し出している。

 業界にとって想定外だったこの変化は、UPOV条約批准や遺伝子組み換え食品の規制と表示撤廃、食品添加物や農薬の安全規制緩和などの要求を盛り込んだTPP11発効に、二重、三重の意味を持たせる結果となった。

 では、TPP11は一体、食の安全にどんな影響を与えるのだろう?

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筆者

堤未果

堤未果(つつみ・みか) 国際ジャーナリスト

東京生まれ。ニューヨーク州立大学大学院国際関係論学科卒業。国連、証券会社を経て現職。米国の政治経済医療教育農政エネルギーなど、現場取材と公文書による調査報道を幅広く手がける。2006年『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞。2008年『ルポ・貧国大国アメリカ』(三部作、岩波新書)で日本エッセイスト・クラブ賞、2009年に中央公論新書大賞。多数の著作は海外でも翻訳されている。近著に『日本が売られる』(幻冬舎新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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