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ニッポンの「食の主権と安全」が売られる!

知らないではすまされない。「食への意識」を国民は高めよ

堤未果 国際ジャーナリスト

緩くなる未承認食品流入のチェック体制

 まず、未承認食品流入のチェック体制が、今より緩くなる。

 現在92時間かけている輸入食品の検疫が、TPPによって48時間に短縮される。食品が遺伝子組み換えであるかどうかを検査するには丸一日かかるため、48時間ですべての検査を終えるのは、物理的にかなり厳しくなってしまう。

 とすれば、今後、輸入食品の検査時間を短縮するか、検査項目を減らさなければならなくなるだろう。

 また、たとえ規制されている遺伝子組み換え食品流入を見つけても、今までのようにすぐに輸出国に返送できなくなる。安全かどうかの決定自体を、まず企業も含めた関係者で協議し、返品に合意するステップを踏まなければならないからだ。食品表示に関しても、彼らの同意なしにはできなくなる。

 これからさらに多くの輸入食品が流れ込んでくる状況で、日本人の食の安全を守るには、現在約400人の食品安全検査員の緊急増員と、わずか7%しかない検査率の拡大が急務だろう。だがマスコミがこうした問題を大きく取り上げず、国民の関心も薄いため、政府も動こうとしないのが現状だ。

日本人の食に関する選択肢が消える

ゲノム編集で作られたイネ=2017年10月31日、茨城県つくば市の農研機構拡大ゲノム編集で作られたイネ=2017年10月31日、茨城県つくば市の農研機構

 さらに、たとえ検閲に引っかかったとしても、その安全評価基準は今より緩めなければならない。TPP11のルールでは、企業に不利になる「予防原則」が主張できないからだ。他国で危険だとされている農薬や化学肥料、遺伝子組み換えやゲノム編集のような未知の食品でも、一定レベルの被害が出るまでは政府は規制できなくなる。

 ちなみに、従来の遺伝子組み換えよりさらに進化した、遺伝子そのものを編集する「ゲノム編集食品」については、日本政府はアメリカと足並みを揃え、「DNAを人工的に切断したもの」や 「DNA操作後に遺伝子除去したもの」なら安全審査不要という方針を進めている。

 EUを筆頭に世界の国々は予防原則を重視する方向に進んでいるが、日本やアメリカは逆方向に向かっており、TPP11は明らかに後者の意図を汲んでいるのだ。

 科学技術が進化するスピードが人間の想像を超える時代に生きる私たちにとって、「選択肢」を持ち続けることは身を守ることと同義語になる。だからこそ、情報を遮断するような法改正には、厳重な注意が必要だ。

 2018年3月、消費者庁の「遺伝子組み換え食品表示に関する検討会」は、すでにザル法の「遺伝子組み換え食品表示」ルールを温存し、「非遺伝子組み換え表示」の基準を厳格化した。今後、店頭から「遺伝子組み換えでない」表示は消え、消費者が遺伝子組み換えかそうでないかを見分けることは、今よりずっと困難になるだろう。

 大半の国民はこうした一連の動きを知らず、ある日スーパーの棚の前で、初めて自分たちの食に関する選択肢が消えたことに気づくのだ。

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筆者

堤未果

堤未果(つつみ・みか) 国際ジャーナリスト

東京生まれ。ニューヨーク州立大学大学院国際関係論学科卒業。国連、証券会社を経て現職。米国の政治経済医療教育農政エネルギーなど、現場取材と公文書による調査報道を幅広く手がける。2006年『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞。2008年『ルポ・貧国大国アメリカ』(三部作、岩波新書)で日本エッセイスト・クラブ賞、2009年に中央公論新書大賞。多数の著作は海外でも翻訳されている。近著に『日本が売られる』(幻冬舎新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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