石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者
1998年、朝日新聞社入社。岐阜総局などを経て社会部でメディアや教育、原発など担当した後、2018年から特別報道部記者、2019年9月からデジタル研修中。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学感染症情報分析センターIDIA客員研究員。著書に「それでも日本人は原発を選んだ」(朝日新聞出版、共著)等
住民投票に賛成反対と棄権以外の選択などない。ぶれずに進むべきだ
投票までおよそ1カ月というこの期に及んで、沖縄「辺野古」県民投票は実施そのものをめぐって揺れ続けている。
普天間基地移設に伴う埋め立ての賛否について県民が直接意思表示する初めての機会なのに、5市が不参加を表明。このままでは3割以上の県民が投票できない事態となる。
住民投票の歴史を振り返れば、民意を行政に映すための一手段というにとどまらず、地域の利害を無視して推し進められる国策や都道府県の政策に対し、住民が自らの手で地域の将来を決めようと、「主権」を発動して抗する試みでもあった。
首長や議会が「民意」の表出を止めることは許されるのか。国策と地方の自己決定権との衝突をどう克服するのか。辺野古問題の行方は――。
国内で先駆けて産業廃棄物処分場建設を問う住民投票を実施した岐阜県御嵩町の柳川喜郎・前町長にインタビューした。
〈やながわ・よしろう〉 1933年東京生まれ。45年に父の転勤で岐阜県に転居し、御嵩町内の中高、名古屋大法学部を経てNHKに入局。社会部記者、ジャカルタ支局長、解説委員などを歴任した。義父が御嵩町長だった縁で町長選に担がれ95年に初当選。2007年まで3期を務めた。
――議会の予算案否決などを受け、宜野湾市や沖縄市など5市の市長が県民投票への不参加を決めました。投票条例制定の直接請求をした市民が全自治体の参加を求めてハンストまで始めましたが、市長らは態度を変えていません。
自治体が地方自治の本旨にもとる行動をとっているということになる。今回の県民投票条例は県民の直接請求権の行使によって、県議会の議決を経て成立している。県議会には宜野湾市など選出の議員もいる。そこで決めた条例が「市町村の事務」と定めた投票事務を行わないのは、国会の多数決で決めたことに従わないことと同じだ。
投票に参加しないと宣言した市の市民は同時に県民でもある。投票したくない市民や県民投票に反対の市民もいるだろうが、投票したい市民も当然いる。その権利を首長の一存で奪うなど、憲法が保障する参政権を踏みにじる理不尽であり、許されない。
投票に反対の人は投票に行かなければよい。辺野古への移設に反対というなら、反対の一票を投じればよいだけだ。それを、自分が反対だからといって首長や議員がその権限で不参加を決めるのは、筋が通らない。
それともうひとつ。住民投票についてメディアは二言目には「法的拘束力がない」などと言うが、その説明がそもそもおかしい。
条例は法体系の一部であり、その地域を縛る「掟」だ。政令や省令よりもレジティマシーは高い。議会を通った条例による住民投票は、「法律上の」拘束力はなくても、リーガルな、つまり「法的な」拘束力を持つ。それを破ることは首長にも許されない。そうじゃなかったら、わざわざ条例を通してまで実施する意味はなくなる。
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