なぜ、投票関連予算が問題になるのか?

「『辺野古』県民投票の会」のメンバーに自身の考えを説明する島袋俊夫うるま市長(左奥)=2019年1月15日、沖縄県うるま市
次に、ではなぜ市町村の県民投票事務経費の予算が問題になるかについて考えます。まず、繰り返しですが、沖縄県県民投票はあくまで県の事務ですので、その費用は当然県が負担し(沖縄県の予算にはその費用が計上されています。)、市町村には負担は生じません。
ただし、執行段階では、市町村の県民投票事務経費は、いったん市町村の支出として予算計上されたうえで、これを県からの交付金収入で賄う形になります。そのため、県民投票事務経費を「支出」に、県からの交付金を「収入」に計上した予算案を否決されると、そのままでは(後で述べますが別の方法はあります)県民投票事務についての予算を執行できなくなってしまいます。
このため、市議会で県民投票事務の予算が否決された沖縄市、宜野湾市など上記の5市では、これを理由にそれぞれの市長が、委託された県民投票事務を執行しないことを表明しているのです。
ところが、このように本来法律上おこなわなければならない経費の予算が通らないと、地方自治体の行政執行に困難が生じます。そこで、地方自治法には以下の規定があります。
第177条
1 普通地方公共団体の議会において次に掲げる経費を削除し又は減額する議決をしたときは、その経費及びこれに伴う収入について、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付さなければならない。
① 法令により負担する経費、法律の規定に基づき当該行政庁の職権により命ずる経費その他の普通地方公共団体の義務に属する経費
② 非常の災害による応急若しくは復旧の施設のために必要な経費又は感染症予防のために必要な経費
2 前項第一号の場合において、議会の議決がなお同号に掲げる経費を削除し又は減額したときは、当該普通地方公共団体の長は、その経費及びこれに伴う収入を予算に計上してその経費を支出することができる。
解説すると、1項①号で、法令により負担しなければならない経費が否決された場合は、まずは再議に付さなければならない旨を規定し、それでも否決された場合は、首長自らの判断でこれを予算計上して支出できることを2項で定めているのです。
市長に法律上の拒否権限はない

玉城デニー沖縄県知事との会談後、記者の質問に答える下地敏彦宮古市長=2019年1月9日、沖縄県宮古島市
これに関連し、沖縄を地盤とするさる自民党の衆議院議員が、地方自治法第177条2項で「支出できる」とある以上、これを支出するかしないかは首長の自由だから、予算案を否決すれば、首長は投票事務をする必要はない(法的に拒否できる)、とする資料を自民党系の市会議員に配布したと報道されています。
しかし、そもそも論ですが、法的に○○をしなければならないということと、○○をする予算のあるなしは、あくまで別物です。法的に実行義務あっても、予算がなければ実行できないという場合はあっても、それによって法的実行義務が消滅するわけではありません。
地方自治法177条2項は、法令により負担しなければならない経費はあくまで負担しなければならないからこそ、議会が否決した時には、その負担については首長の判断だけで(議会の承認なしで)支出できると規定しているというのが普通の解釈であり、第177条2項を根拠に、市町村長が条例で定められた県からの委任事務を拒否できるとするのは、牽強付会(けんきょうふかい)的な立論であるといわざるを得ません。
まとめると、沖縄県の市町村長には、県から委託された県民投票事務を拒否する権限はなく、かつ議会がその予算を否決してもそれを自らの判断で実行できる。それゆえ、その拒否は違法であると解されます。