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移民の解禁と満州国の「民族協和」

「多民族」的ネーションの統合の核となる理念が必要だ

柴田哲雄 愛知学院大学准教授

筆者の結論

 まずは筆者の結論を明らかにしておきましょう。日本は事実上、移民の解禁に踏み切りましたが、それに伴って、従来の「単一民族」的ネーション(国民、国家を構成する成員)を「多民族」的ネーションに再形成するという課題が浮上しています。その際、改めてネーションの統合の核になる理念を定めることが必要とされます。保守派の共鳴を得るためにも、満州国の「民族協和」をそうした理念とするのはいかがでしょうか。ただし「多文化主義」と「デニズンシップ(居住を根拠として、様々な権利を非ネーションに付与すること)」を軸に、民主主義社会にふさわしいようにリニューアルした上で、です。

安倍首相の矛盾した態度

拡大外国人労働者に関する野党合同ヒアリングに出席し、思いを述べる技能実習生ら=2018年11月12日、国会内
 日本政府は「特定技能」という在留資格を設け、外国人の単純労働者を受け入れるという画期的な決定を行いました。しかし周知のように、この決定には様々な問題点が指摘されています。悪評高い技能実習制度を温存する「特定技能1号」では、家族の帯同を不可にする、などです。

 なかでも最大の問題点は、安倍首相の矛盾した態度ではないでしょうか。「特定技能2号」では、家族の帯同を許可しており、永住、ひいては帰化への道を開くものになっています。事実上、移民の解禁と言ってよいでしょう。日本は今後、他の先進諸国と同様に、本格的に多民族国家への道を歩むことになります。しかし安倍氏は、国会審議で「移民政策をとることは考えていない」と述べるなど、それを躍起になって否定しているのです。

 安倍氏が矛盾した態度をとっているのは、人手不足を背景に外国人の単純労働者を求める財界と、従来の「単一民族」的ネーションにこだわる保守層との間で、板挟みになっているからでしょう。このままでは、移民は人権を保障されることなく、技能実習生と同様に劣悪な境遇に追い込まれ、世代を超えて二級市民に固定化されてしまうということになりかねません。その結果は、社会に修復し難いほどの分断や亀裂をもたらすことになるでしょう。

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筆者

柴田哲雄

柴田哲雄(しばた・てつお) 愛知学院大学准教授

1969年、名古屋市生まれ。中国留学を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得退学。2002年以来、愛知学院大学教養部に奉職。博士(人間・環境学)を取得し、コロンビア大学東アジア研究所客員研究員を務める。主著に、汪兆銘政権とヴィシー政府を比較研究した『協力・抵抗・沈黙』(成文堂)。中国の亡命団体に関して初めて本格的に論じた『中国民主化・民族運動の現在』(集広舎)。習仲勲・習近平父子の生い立ちから現在に至るまでの思想形成を追究した『習近平の政治思想形成』(彩流社)。原発事故の被災地にゆかりのある「抵抗者」を発掘した『フクシマ・抵抗者たちの近現代史』(彩流社)。