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ルロス・ゴーン容疑者の弁護人を務める大鶴基成弁護士の記者会見に集まった報道関係者=2019年1月8日午後3時20分、東京都千代田区の日本外国特派員協会拡大カルロス・ゴーン日産前会長の弁護人を務める大鶴基成弁護士の記者会見=2019年1月8日、東京都千代田区の日本外国特派員協会

1月8日(火) 午前中「報道特集」の定例会議。頭の中を虚無感が吹き抜けていく。

 今日午前10時半からカルロス・ゴーン日産前会長の拘留理由開示手続き。本人が出廷。いくつかのテレビでは刻々と本人の陳述の模様を速報ベースで報じていた。「私に対する容疑がいわれのないものであることを明らかにしたい」「人生の20年を日産の復活に捧げてきた」「私にかけられた容疑は無実です。根拠無く、不当に勾留されている」と。法廷から飛び出してきた傍聴記者によれば、体重がかなり減ったようで頬がこけていたという。だが英語で10分間ほど続いた意見陳述の際は、しっかりとした口調だったという。

 午後3時から外国特派員協会(FCCJ)で大鶴基成弁護士らの記者会見。FCCJが新しい場所に移転して今年最初の会見がこれだった。会場には入りきれないほどの記者とカメラマンが押し寄せていた。僕は道に迷ってしまい、何と会場に着いたのが午後3時5分頃。ところが弁護団の会場入りが遅れたらしく、何と大鶴弁護士らと同時に会場入りする羽目になった。座る席など見当たらないほど会場には報道陣がぎっしり。やむをえず正面ステージの真ん前のカメラマン集団の余白に紛れ込んでしばらく立って聞いていた。記者席を見渡すと、顔見知りの仏フィガロ誌のレジス・アルノ―氏が目に入った。しかもその隣の椅子には鞄が置かれていて誰も坐っていないではないか。それで僕は堂々と前に進み出て、アルノ―氏に「やあ、しばらく。隣に座っていい?」と言いながらその席に陣取った。以降、ずっとこの特等席で会見を聴いていた。

 FCCJは、300人を超える報道陣を何とか全員入れようと、レストラン部分の壁を取っ払って開放していた。柔軟だよなあ、FCCJは。司会は旧知の神保哲生氏がつとめていた。だから、省庁の記者クラブのような「排他性」が微塵もない。おまけに日英通訳の女性がスーパーと言っていいくらい卓越した能力の持ち主なので安心して聞いていられた。

 問題はゲスト・スピーカーの方だ。どこか気迫に欠けている。ゴーン弁護団の大鶴弁護士が最も強調していたのは、これ以上ゴーン氏を勾留する理由がないということ。特別背任容疑のSWAP契約の主体をゴーン氏から日産に付け替えたことは、ゴーン氏・日産・銀行間3者の合意に基づいており、日産に損害を与えたものではない、と。またサウジの実業家への送金についても、サウジの実業家が「正当な対価」だと主張しており、特捜部はゴーン氏を逮捕する前にサウジ側実業家から聴取もしていなかった事実を暴露していた。大鶴氏は「必要のない支払いだったというのに、その支払先から全く話も聞かずに逮捕とは異例中の異例」と述べていた。

 大鶴氏はかつて東京地検特捜部長をつとめていた検察のどまんなかの人だった。だから聞いていて、「検察ファミリーの大枠」のようなもの(これ自体が非常の日本的な狭いムラ社会なのだが)が、発言の随所に感じられたのは、僕自身がかつて(大昔のロッキード事件裁判の頃)特捜部担当の記者を経験したこともあるからか。顔見知りの外国人記者たちの反応は総じて厳しいものだった。「ミスター・オオツルからは検察に対するファイティングスピリッツが感じられない」「顔の表情が不安に満ちていてどこか弱々しい」等々。とにもかくにもこの事件は奥が深い。

 夜、都立大でNさん。去年11月のサムルノリの東京公演が素晴らしかった、と。キム・ドクㇲは全体の監督役で演者は若い世代だが、素晴らしかったと。みたかったなあ。先崎彰容の『未完の西郷隆盛――日本人はなぜ論じ続けるのか』という本が面白くてお薦めと言われる。

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筆者

金平茂紀

金平茂紀(かねひら・しげのり) TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

TBS報道局記者・キャスター・ディレクター。1953年、北海道生まれ。東京大学文学部卒。1977年、TBSに入社、報道局社会部記者を経て、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長、コロンビア大学客員研究員などを経て、2010年より「報道特集」キャスター。2004年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『沖縄ワジワジー通信』(七つ森書館)、『ロシアより愛を込めて――モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994』(筑摩書房)、『二十三時的――NEWS23 diary 2000-2002』(スイッチ・パブリッシング)など。共著に『テレビはなぜおかしくなったのか<原発・慰安婦・生活保護・尖閣問題〉報道をめぐって>』(高文研)、『内心、「日本は戦争をしたらいい」と思っているあなたへ』(角川書店)など多数。

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