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【5】トランプ大統領の凋落が始まった?・上

政府閉鎖で「国境の壁」めぐり得るものなし。支持率は過去最低。ささやかれる「変調」

沢村亙 朝日新聞論説委員

トランプ大統領の得意パターン

 言動の先行きが読めないことを「武器」とするトランプ氏だが、それでも一定のパターンがある。

 自分を批判する者、意に沿わない態度をとる者に対しては、「10倍返し」「100倍返し」で猛烈な批判、非難を浴びせる。まるで脅迫ともとれる高圧的な姿勢で、最大限の要求を突きつける。相手がひるみ、折れたり妥協したりするそぶりを見せるやいなや、要求のレベルを一気に引き下げて「ディール」へと持ち込む。

 トランプ氏にとって大事なのは、「どれだけの果実を得たか」ではない。いかに難しい相手と「合意」を結んだか。まさしく、本人の著書のタイトルにもある「ディールの技」(Art of the Deal)を大衆に見せつけることにある。

 今回もアメリカ国民向けのテレビ演説で、「南の国境で、人道上および国家安全保障上の危機が高まっている」と、危機を最大限に演出するいつもの得意の手法を展開。メキシコとの国境沿いに不法移民の流入を防ぐ壁を建てる57億ドル(約6200億円)の本予算への計上についての理解を求めた。

国境の壁建設に向けた「勝算」

⽶国とメキシコの国境の⼀部にはすでに塀やフェンス、柵が設けられている。塀のメキシコ側には⽶国⼊国をめざ
すメキシコ⼈家族のテントが並んでいた=2019年1⽉24⽇、メキシコ北部サンルイスリオコロラド(筆者撮影)
拡大⽶国とメキシコの国境の⼀部にはすでに塀やフェンス、柵が設けられている。塀のメキシコ側には⽶国⼊国をめざ すメキシコ⼈家族のテントが並んでいた=2019年1⽉24⽇、メキシコ北部サンルイスリオコロラド(筆者撮影)
 トランプ氏にとって「国境の壁」は、公約中の公約。まさしく「鉄板」ともいえる最大の政策目標のひとつである。

 だが、昨年11月の中間選挙で民主党が連邦下院で大勝し、議席の過半数を握った。これによって、特に議会承認が必要な予算措置を伴う政策を自分の思い通りに実現させるのがかなり難しくなった。そのこと自体はトランプ氏も自覚している。だからこそ、ここは多少の「血」は流しても、壁建設に向けて突っ走るしかなかった。

 トランプ氏がなぜ、「国境」や「壁」にここまでこだわるのかは別の機会に論じることにしたいが、今の厳しい政治状況でも、彼なりの「勝算」はあった。

 中核的な支持層である共和党保守層を除けば、莫大な費用を費やす壁の建設についての国民の支持は高いとはいえない。だが、不法移民への懸念の声は党派を越えてアメリカ社会にそれなりにある(不法移民や国境の壁に関する米国民の意識を調べた米調査機関Pew Research Centerのサイト参照)。ここで「壁がないために米国への入国に淡い期待を抱き、危険きわまりない移民キャラバンに加わるかわいそうな女性や子どもたち」という「人道危機」も併せて強調すれば、より幅広い理解が得られるかもしれない。しかも、民主党は、主流派と、移民の権利擁護に熱心な左派とに分断されており、政府閉鎖が長引くうちに主流派の一部が音を上げて自分の主張に歩み寄るのではないか。米国世論も「移民の権利より、自分たちの生活にかかわる政府閉鎖を終わる方が大切」という方向に振れていくはずだ――。

 そんな読みである。

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筆者

沢村亙

沢村亙(さわむら・わたる) 朝日新聞論説委員

1986年、朝日新聞社入社。ニューヨーク、ロンドン、パリで特派員勤務。国際報道部長、論説委員、中国・清華大学フェロー、アメリカ総局長などを経て、現在は論説委員。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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