沢村亙(さわむら・わたる) 朝日新聞論説委員
1986年、朝日新聞社入社。ニューヨーク、ロンドン、パリで特派員勤務。国際報道部長、論説委員、中国・清華大学フェロー、アメリカ総局長などを経て、現在は論説委員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
かみあわない「トランプ流」。ロシア疑惑につのる不安。次々と去る高官たち……
トランプ氏の「変調」を浮き彫りにしたもう一つの年末の出来事は、12月19日の朝、「我々はシリアでISに勝利した。トランプ政権で米軍をシリアに駐留させる唯一の理由だった」と投稿したトランプ氏のツイッターだった。間を置かず、ホワイトハウスはシリアからの米軍撤退開始を発表した。
ボルトン国家安全保障担当大統領補佐官やポンペオ国務長官をはじめ、外交・安全保障政策を仕切る高官がこぞって反対するのを押し切ってのトランプ氏の独断だった。トランプ政権では数少ない「(大統領に)ノーと言える、おとな」(国務省職員)と形容されていたマティス国防長官が抗議の辞任をしたことは、いまや周知のとおりである。
何ごとも損得勘定を優先して考えるトランプ氏にとって、莫大なコストと若者の命の危険というリスクをアメリカが払って、あたかも「世界の警察官」のように全世界に兵力を展開するというのは、「割の合わないビジネス」といえた。
つまりトランプ氏が思い描く“強いアメリカ”像とは、国際秩序を主導していくリーダーとしての「強さ」ではなく、だれも寄せ付けない堅い甲羅で国境を守り、アメリカのみの国益をとことん追求していく「強さ」にほかならない。
シリア撤退もまた、この文脈に沿った判断であり、そもそもトランプ氏の長年の公約でもあった。とはいえ、国内外の反発や懸念の押し切ってまで、今それに突き進むのはなぜか。いったいトランプ氏は何に焦っているのか。
まずは前述したように中間選挙での手痛い敗北がある。下院で共和党が議席を大きく減らしただけではない。大統領選での自らの勝利に大きく貢献したウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州などの知事選で民主党の候補が勝利したのは、自らの再選に向けての気がかりな「黄信号」といえた。
さらにトランプ氏をいらだたせているのが、アメリカ経済の変調だ。
トランプ氏は、株高や歴史的な低失業率など大統領就任いらいの経済の好調ぶりを、自らが音頭をとった大規模減税や規制緩和策の成果だとして、何かにつけて自賛してきた。自らの支持率と並んで、日々の株価の動きにもきわめて敏感だ。
その株価が昨年12月に大きく急落。連邦準備制度理事会(FRB)が「自分の反対に耳を貸さずに利上げしたからだ」といわんばかりに、FRBのパウエル議長に対する不満をむき出しにした。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?