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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(22)

第6章 「日本語力」で上達する 4.「差し上げる」「召し上がる」丁寧語や謙譲語

市川速水 朝日新聞編集委員

母上が……

 さて、敬語の話を続けます。相手がしてくれるのは주다(チュダ、ジュダ)。「チュセヨ(ください)」はよく知られていますよね。

 自分からするのは드리다(トゥリダ)です。区別しましょう。日本語と同様、「して(差し)あげる」のと「していただく」のは違う言葉になります。

例:「この資料はいただけるものですか?」「ええ、差し上げるものですよ」
「이 자료는 주실 거에요? 」「네, 드릴 거에요」

 韓国特有の、助詞の敬語的表現もあります。「께서」や「께」です。

 어머님께서(オモニムケソ)=母上が

 …というと大げさですが、実際は「母が」と一緒です。韓国では、自分の父母や自分の会社の上司にも敬語的表現を使います。よく教本のテキストで会社の受付に電話がかかってきて「社長は不在です」と言う時などに「사장님(サジャングニム)」と「님=様」を付ける場面が多くあります。日本のように「会社や家族という身内については、外に向かって敬語をつけない」という慣習とは異なります。「絶対的な敬語表現」といってもいいでしょう。相対的な日本とは文化の違いがありそうです。

ちょっと寄り道㊱ 動詞をはっきり言うお国柄
 韓国は「贈り物大国」でもあります。友達の誕生日に、久しぶりに会った知人に、学校や習い事の恩師に、花束や文房具、お菓子をプレゼントする光景がどこにでもあふれています。誕生日を迎えた本人が友人にごちそうする、という独特の習慣もあります。
 また、11月11日は「ペペロの日」とされています。「ペペロ」(빼빼로、pepero)は日本の「ポッキー」と瓜二つ。「1」が並ぶこの日、友人同士でペペロを交換する習慣がありますが、特に学校の先生には、大量のペペロが集まってきます。
 いつぞや、偶然この日に大学教授の研究室を訪問した時、部屋が100箱以上ものペペロで埋まっているのに驚きました。「こんなに食べられない。メタボになってしまう。少し持って帰ってくれませんか」と言われ、10箱ぐらいいただきました。
 さて、本題。こんな時、どうお礼を言ったらいいのでしょうか。単に「カムサムニダ(ありがとうございます)」だけでなく、もうひと声。「잘 먹겠습니다(チャル モッケッスムニダ)」というのが普通の表現なのです。直訳すれば「ちゃんと食べます」です。
 ではペンを贈られた時は? 「うれしい、ありがとう」の後、どう続けますか? 例えば日本語では「大切にします」ですかね。韓国語でよく使われるのは「ちゃんと使います」(잘 쓰겠습나다、チャル スゲッスムニダ)です。
 セーターをくれた人には「ちゃんと着ます」(잘 입겠습니다 チャル・イプケッスムニダ)。「ちゃんと」というのは少し変な訳かもしれませんが、「よく」とか「末永く」といった意味合いです。
 何より頻度が高いのは、食事の前の「いただきます」に当たる言葉です。「ちゃんと(よく)食べます」(잘 먹겠습니다、チャル・モッケッスムニダ)となります。ペペロの例と一緒ですね。「いただく」は日本語と似ていますが、日本の場合は、神様や農家の人、料理を作ってくれた人への感謝という意味合いが大きいですよね。韓国語は、話し手の主体の動作が中心になります。食べ終わった後の「ごちそうさま」は「잘 먹었습니다、チャル・モゴッスムニダ」(よく食べました)と過去形になります。
 日本語で「~する?」と聞くような場合も、韓国語ではきっちり動詞で聞くことが多いと感じます。「ゴルフやるの?」「ピアノうまいんだ」などの表現も、韓国語では「ゴルフよく打つの?」「ピアノよく弾くんだ」となります。ちなみに、「打つ」も「弾く」も「치다、チダ」。ピアノも鍵盤を打つからなのでしょう。ゴルフの場合、「コルプ、チャル・チョヨ?(ゴルフやりますか?)」と聞かれたので、何のことかと面食らいました。「ゴルフ」が「コルプ」になってしまうのですね。このへんの外来語の違いについては20週目で説明しました。
拡大東京・新大久保の看板。日本語とほぼ同じ大きさのハングルで注意書きされています。
 写真は東京・新大久保のコリアンタウンで見かけた看板です。日本語と微妙に対応していないのにお気づきですか。ハングルを直訳すると、「歩道では通行人の妨害にならないようにしましょう」。「立ち止まらない」ことの目的をちゃんと書かないと通じにくいと思ったのかもしれません。
 ついでに動詞関連で少し。「動詞をもろに採り入れた名詞」について考えてみました。日本語でも、万年筆や傘、扇子など格好いい固有の名前がある一方、機能だけをつなげたちょっと気の毒な名詞ってありますよね。特に日用品に。
 消しゴム。ちりとり。ゴミ箱。ひげそり。灰皿。下駄箱。
 韓国語もわりと同じ発想でその道具の名前ができています。それぞれ、
 消しゴム:지우개(チウゲ)=지우다(消す)+名詞形に整える「개」
 ちりとり:쓰레받기(スレバッキ)=쓰레기(ごみ)+받다(受ける)+기(名詞形に整える語尾)
 ゴミ箱:쓰레기통(スレギットング)=쓰레기(ごみ)+통(筒の漢字語読み)
 ひげそり:면도기(ミョヌドギ)=面刀の漢字語読み+기
 灰皿:재떨이(チェトリ)=재(灰)+떨(取る)+이(名詞形に整える語尾)
 下駄箱:신발장(シヌバルジャング)=신발(履きもの)+「ケース」的な意味の古い言葉「欌(장)」
 トイレの詰まった時に使う「ゴムのパッコンパッコン」は、日本語の名前も最近まで知らなかったのですが、ラバーカップというそうです。韓国語で「뚫어 뻥」(トゥロポング)って言うらしいのですが(本当に本当かは真偽不明)、韓国人に言ってみても分かりませんでした。「トイレで使う뼝뼝(ポンポン)かな」ですって。それじゃ日本語と一緒じゃん。


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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

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