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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(22)

第6章 「日本語力」で上達する 4.「差し上げる」「召し上がる」丁寧語や謙譲語

市川速水 朝日新聞編集委員

石畳を歩いて落ち着いたカフェへ。ソウル市内には、にぎやかな店だけでなく伝統的な家屋様式「韓屋」を生かした店づくりが流行っています。

丁寧語や尊敬語、謙譲語を学びましょう!

 アンニョンハシムニカ!

 会話で一番気をつけることって何でしょうか? 正しく言うこと。これは当たり前ですね。

 それに加えて、相手に対して礼を失しないことが重要だと思います。友人同士でも礼儀があり、上司や目上の人ともちょっと違う作法がある。この点、日本語と韓国語は相当共通しているといえるでしょう。

 少なくとも英語や中国語の世界での対人関係を表す言葉とは別な構造になっています。単語選びや言い方そのものが違ってきますので。

 まず、日本語的に「丁寧語や尊敬語、謙譲語とは何か」を考えてみましょう。日本語で特徴のある丁寧語・敬語の次の4点に絞って韓国語と比較してみます。

(1)「お食事」のように名詞や動詞に(なんでもかんでも)「お」「ご」をつける。
お風呂、お休み、お待ち、ご祝儀、ご鞭撻、ご健康
「お」と「ご」の区別は日本語でも難しいですよね。
→韓国語:名詞や動詞の頭に何かつけて丁寧さを表す規則はありません。

(2)「行く」を「行かれる」、「来る」を「来られる」のように「れる・られる」をつける。
「お食事」と言う場合、「されましたか?」のように対応する場合もある。
→韓国語:似ています。動詞の語幹の後に「~시(シ)」「~세요(セヨ)」を付けて丁寧化します。
가십니까?(カシムニカ? 行かれますか?)
앉으세요.(アヌジュセヨ。お座りください)

(3)語尾を謙譲表現に変化させるために「差し上げる」を最後につける。
「しましょうか?」は「して差し上げましょうか」となる。
→韓国語:似ています。「드리다(トゥリダ)」を付けて「~해 드립니다(ヘ トゥリムニダ)」という風に言うと「~して差し上げます」の意味になります。普通の丁寧語は「~해 드려요(~ヘ トゥリョヨ)」となります。職場などでより丁寧に言う場合は「~해 드리겠습니다(~ヘ トゥリゲッスムニダ)」となります。どちらも「して差し上げます」となります。ちなみに、手紙の最後に「○○より」と結ぶ時には、しばしば「드림(トゥリム)」と書かれます。パッチム「ㅁ」を付けると動詞が名詞形になります。「差し上げました」=「啓上」「敬具」「早々」などの意味ですね。

(4)単語そのものが置き換わる場合がある。
「食べますか」は中途半端な「お食べになりますか」を超えて「召し上がりますか?」となる。「いますか?」は「いらっしゃいますか」「おいでですか?」と別な言葉になる。
→韓国語:日本語同様、数は多くありませんが、置き換える言葉があります。食べるは먹다(モクタ)ですが、丁寧語は드시다(ドゥシダ)。動詞自体が違います。日本語で「お食べになってください」と言っても何とか通じますが、あまり上品とは思われません。「召し上がってください」がより丁寧ですね。韓国語的には「モクタ」と「~セヨ」は相性が悪く、「モグセヨ」とは決していいません。
また、「いらっしゃる」は계시다(ケシダ)という言葉を使います。있다の丁寧語です。訪問の時、取材の時、電話口でも「いらっしゃいますか?」は必須語ですよね。「계십니까?(ケシムニカ?)」と言います。「안 계십니까?(アン ケシムニカ?」は?「いらっしゃいませんか?」です。言い方は否定形になっても、意味は一緒。このへんも日韓の言葉は通じ合っています。

ちょっと寄り道㉟ カフェの決まり文句
 コーヒーショップで飲み物を頼むと、いつも直後に何か言われるのに気付きました。最初は聞き取れなかったのですが、どうやら「ドシゴカセヨ?」という響きなのです。何カ月も聞き取れなくて、店員さんに聞くのも恥ずかしいし、後ろに客が列をつくって待っているので、頭をひねりながら終わってしまいました。
古民家の柱や屋根を生かしたソウルのカフェ。若者でいっぱいです。

 ある時、家庭教師の先生と一緒に行って、「ほら、今のあれ、何と言ったのですか?」と聞いてもらいました。
 「召し上がって(から)行きますか?」と言っていたのでした。「드시고 가세요?(ドゥシゴ カセヨ?)」
 なるほど。日本の言い方だったら「店内でお召し上がりですか」ですよね。テイクアウトするか店内で飲むかどうかを聞いていたわけです。日本語と発想が逆だったのですね。
 その後、「아니요.테이크 아웃으로 부탁합니다(アニョ、テイクアウスロ プッタッカムニダ)」(いいえ、テイクアウトでお願いします)と言ってばっちり通じた時はうれしかったです。
 ついでに、よく行くカフェ(喫茶店)でのメニューや「アイテム」について、美味しいものを逃したりストレスがたまったりしないように、あらかじめ知っておきましょう。
・カフェラテ=カッペラッテ 카페라떼
・モカ=モッカ 모카
・アイスコーヒー=アイスコッピ 아이스커피
・砂糖=ソルタング 설탕 *由来は「雪糖」という言葉らしいです。
・ストロー=パルデ 빨대 *대というのは「竹」という意味もあるし、たばこの「~服」、注射の回数などを指したりするのですが、どうも「長いもの」と関係ありそうです。
・紙ナプキン=ネプキヌ 냅킨
・お代わり=リッピル 리필 英語の「refill」から来ているのです。再び満たす、ですね。日本ではあまりお代わりの時に使われませんが、最近の韓国では当たり前に使います。まさに「お得」な表現です。たいていは、普通のホットコーヒーの時だけに通用します。私も何十杯かご馳走になりました。ぜひお試しを。

母上が……

 さて、敬語の話を続けます。相手がしてくれるのは주다(チュダ、ジュダ)。「チュセヨ(ください)」はよく知られていますよね。

 自分からするのは드리다(トゥリダ)です。区別しましょう。日本語と同様、「して(差し)あげる」のと「していただく」のは違う言葉になります。

例:「この資料はいただけるものですか?」「ええ、差し上げるものですよ」
「이 자료는 주실 거에요? 」「네, 드릴 거에요」

 韓国特有の、助詞の敬語的表現もあります。「께서」や「께」です。

 어머님께서(オモニムケソ)=母上が

 …というと大げさですが、実際は「母が」と一緒です。

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