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冷めたピザ? 凡人・小渕首相のしたたかな実像

平成政治の興亡 私が見た権力者たち(9)

星浩 政治ジャーナリスト

金融危機めぐり「政策新人類」が活躍

 小渕政権の緊急課題は、金融危機の回避だった。1997年暮れの山一証券の自主廃業に続いて、こんどは日本長期信用銀行(長銀)の経営危機が迫っていた。小渕首相は首相公邸で住友信託銀行の高橋温社長と直談判。長銀救済のため合併するよう求めたが、受け入れられなかった。

株価の急落で経営危機との噂で駆け付けた客たちの対応に追われる日本長期信用銀行名古屋支店の行員たち =1998年6月22日、名古屋市中区丸の内1丁目拡大株価の急落で経営危機との噂で駆け付けた客たちの対応に追われる日本長期信用銀行名古屋支店の行員たち =1998年6月22日、名古屋市中区丸の内1丁目
 国会では、税金投入による長銀救済を狙った金融再生関連法案に野党の民主党が反対し、膠着(こうちゃく)状態が続いた。衆議院では自民党など与党が過半数を占めていたが、参議院では少数与党という「ねじれ」が続いており、政府・与党の法案は通らないのだ。そこで動いたのが、自民党の塩崎恭久、石原伸晃、民主党の仙谷由人、枝野幸男各氏ら超党派の議員だった。

 彼らによって修正協議を進められ、金融機関の清算や一時国有化を柱とする民主党案を自民党が「丸のみ」することで決着。日本発の世界金融危機は回避された。修正協議に当たった議員たちは、大蔵省に頼らない独自の手法で法案づくりを進め、「政策新人類」と呼ばれた。

念頭にあった公明党との連立

 小渕首相は、かねてから思いつくとすぐに電話をかける習癖があった。その癖は首相就任後も変わらず、「ブッチホン」と言われた。野中官房長官からは「首相なのだから、やめた方がいい」と進言されたが、当の本人は「ブッチホンは民意を計る温度計だ。生の声を聞くことで、世の中の様子が分かる」と譲らなかった。

 私も何度も経験した。新聞社のデスクにかかってきた電話を受けたアルバイトの学生は、首相からの電話にびっくりしていた。そんなブッチホンのひとつ、金融再生関連法案で与野党が合意した直後の電話で、小渕氏はこう話した。

 「参院で与党が少数という事態を変えないとどうにもならない。俺はこだわりがないから、何でもできる」

 その時、小渕氏の念頭にあったのは、野党の公明党(新進党分裂で「公明」と「新党平和」に割れていたが、98年11月に公明党に再統合)との連立だった。自民と公明が連立すれば、参議院で過半数を確保でき、衆参の「ねじれ」が解消される。

自自連立で「座布団」を用意

 小渕氏が「こだわりがない」と言うのには背景があった。中選挙区時代のライバル、福田、中曽根両元首相は、ともに高級官僚出身のエリート。選挙区では伝統的な自民党系の組織に支えられ、中央政界でも公明党・創価学会とはあまり縁がなかった。これに対し、「ビルの谷間のラーメン屋」を自称する小渕氏は、公明党・創価学会とも気さくに接触していた。ちなみに公明党との太いパイプは、自民党内では新興勢力だった田中・竹下派の他のメンバーにも共通している点である。

自自連立に向けて合意書に署名した後、野中広務官房長官(左端)と握手する小沢一郎自由党党首 =1998年11月19日、首相官邸拡大自自連立に向けて合意書に署名した後、野中広務官房長官(左端)と握手する小沢一郎自由党党首 =1998年11月19日、首相官邸
 小渕首相は旧知の秋谷栄之助・創価学会会長の感触を探った。野中官房長官は公明党の冬柴鉄三幹事長に打診した。しかし、公明党・創価学会側は難色を示す。「いきなり自民党との連立することには党内の反発が強い」という。ただ、冬柴氏は野中氏に「自民党と公明党との間に座布団を挟んでくれれば、どうにかなる」とも伝えていた。

 つまり、自民党がまず小沢一郎氏率いる自由党と連立し、その後に公明党も加わる形なら可能だというのだ。

 野中氏は直ちに動いた。竹下派の分裂抗争の時は「悪魔」と呼んで非難した小沢氏との和解を、野中氏は「ひれ伏してでもお願いしたい」と懇願。結局、1998年11月19日、小渕首相と小沢自由党党首は連立に合意した。「自自連立」という形で、座布団が用意されたのである。

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筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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