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中島岳志の「自民党を読む」(6)加藤勝信

安倍家と家族ぐるみ。安倍内閣で一気に出世。安倍的パターナリズムから脱却できるか

中島岳志 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

社会保障制度の確立に奔走

 さて、加藤さんの理念と政策を見ていくことにしましょう。

 ただ、困ったことに、加藤さんは一冊も著書を出しておらず、彼が何を考えている政治家なのかを体系的に知ることができません。そのため、前回の岸田文雄さんと同様、様々な雑誌などに掲載された寄稿文・インタビュー・対談をかき集め、分析する必要があります。

 加藤さんの最大の特徴は、新自由主義が自民党内を席巻する中、珍しく「リスクの社会化」政策に取り組んできたという点にあります。

 加藤さんは2009年に、次のように言っています。

 日本は、家族、地域社会、企業が社会保障の一部を担ってきた側面があります。しかし、国際化、競争の激化といった社会的な動きを背景に、この20年程でそういった機能が低下してきました。この低下した機能を補いきれていないのが現状です。
 そのため、さまざまなリスクに個人が裸でさらされるようになっています。派遣村が話題になりましたが、昔なら失業しても帰るところがあったでしょう。不安や懸念が広まっている背景には、そうした社会の変化に対応できていない現状があると思います。
 低下してしまった社会保障の機能を今後どのように補っていくのかを議論し、新しい体制を作っていく必要があります。(「超党派協議の場を設置し財源も含めて真摯に議論を-加藤勝信氏(自民党厚生労働部会長)に聞く」『週刊社会保障』2009年11月2日号)

 かつての日本は、様々なリスクに対して、家族、地域社会、企業などが力を発揮し、対処していました。しかし、社会の流動化によって、その機能は急速に低下し、国民が裸の状態でリスクにさらされるようになりました。

 これを本来であれば行政がカバーし、セーフティネットを整える政策を行うべきだったのですが、新自由主義の席巻により、新たな社会保障制度が確立されることはなく、「官から民へ」の号令のもと、様々な市場化が進行しました。

 加藤さんは、このような状況に危機感を抱き、新たな時代の社会保障制度の確立に奔走します。

拡大参院厚労委で答弁する加藤勝信厚労相。右隣は安倍晋三首相=2018年6月26日、岩下毅撮影

国民皆保険を守るために

 加藤さんが尽力したことの一つに、国民皆保険制度の維持があります。彼は次のように明言します。

 いつでも、誰でも、どこでも医療にかかることができるという国民皆保険制度は世界に誇るべき素晴らしい制度です。(『健康保険』2009年12月号)

 しかし、この制度は「コストが非常に低く抑えられている」ため、維持が困難になりつつあります。「医師や看護師等の医療従事者の個人の努力により、なんとか成り立ってい」るものの、「個人の努力に依存していては制度として持続性」がありません。

 そこで加藤さんは、診療報酬の見直しを訴えてきました(「超党派協議の場を設置し財源も含めて真摯に議論を-加藤勝信氏(自民党厚生労働部会長)に聞く」『週刊社会保障』2009年11月2日号)。

 厚生労働大臣時代には、国民健康保険の安定化を図るために公費拡充を主張し、負担軽減に取り組みました。

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筆者

中島岳志

中島岳志(なかじま・たけし) 東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授

1975年、大阪生まれ。大阪外国語大学でヒンディー語を専攻。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科でインド政治を研究し、2002年に『ヒンドゥー・ナショナリズム』(中公新書ラクレ)を出版。また、近代における日本とアジアの関わりを研究し、2005年『中村屋のボース』(白水社)を出版。大仏次郎論壇賞、アジア太平洋賞大賞を受賞する。学術博士(地域研究)。著書に『ナショナリズムと宗教』(春風社)、『パール判事』(白水社)、『秋葉原事件』(朝日新聞出版)、『「リベラル保守」宣言』(新潮社)、『血盟団事件』(文藝春秋)、『岩波茂雄』(岩波書店)、『アジア主義』(潮出版)、『下中彌三郎』(平凡社)、『親鸞と日本主義』(新潮選書)、『保守と立憲』(スタンドブックス)、『超国家主義』(筑摩書房)などがある。北海道大学大学院法学研究科准教授を経て、現在、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。

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