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統計の不正が起きた理由と罪の深さ・上

毎月勤労統計の問題を考える

舟岡史雄 信州大学名誉教授

「不適切」ではなく「不正」

 1月22日に公表された特別監察委員会の報告書を一読し、私は多少の違和感を持った。報告書の文中の「不適切な……」「一部齟齬(そご)が生じる」などの表記から伺えるように、「対処の仕方が適切でなかった」、あるいは「ちょっとした不適当な処理であった」という認識が全体を通じて流れていたからである。

 ほどなくして、報告書の原案が厚生労働省内部で作成されていたことが明らかになった。むべなるかなと妙に納得した。

 報告書を受け、新聞やテレビなどマスメディアも、当初は「不適切調査」、「不適切な対応」といった表現を使用していた。だが、その後、隠されていた事実が明らかになるにつれ、朝日、毎日、産経、NHKなどは「不正」な調査と断じるに至っている。

 今後、統計に関して真摯(しんし)な改革を目指すなら、その第一歩は、起こしてしまった問題に真正面から向き合うことに尽きる。「不適切」というどこか及び腰の姿勢ではなく、「不正」と認めることがまずは肝要であろう。

特別監察委員会の奇妙な論理

 2007年に改正された統計法は、第9条第1項で「行政機関の長は、基幹統計調査を行おうとするときは、あらかじめ、総務大臣の承認を受けなければならない」と規定し、第2項で申請書の内容として「報告を求めるための方法」を示している。

 また、第11条第1項で「第9条第1項の承認を受けた基幹統計調査を変更しようとするときは、あらかじめ、総務大臣の承認を受けなければならない」と規定し、第10条でこれを満たしていれば承認しなければならないとされる三つの要件の一つに、「統計技術的に合理的かつ妥当なものであること」を挙げている。

 今回の事案の主要な問題は、2004年1月調査以降、東京都にある常用雇用者500人以上の事業所について、本来は「全数調査」とされていた方法を、承認手続きを取ることなく、「抽出調査」に変更したことに端を発している。

特別監察委員会であいさつする根本匠厚生労働相=2019年1月17日、東京・霞が関 拡大特別監察委員会であいさつする根本匠厚生労働相=2019年1月17日、東京・霞が関

 特別監察委員会の報告書は、2011年8月に統計委員会に諮問され、承認を受けた調査計画と実際の調査方法が異なることについて、調査方法の変更の承認手続きを取らなかったことを根拠に、「統計法違反であると考えられる」と記述し、2018年1月の承認についても同様としている。

 しかしながら、実際には調査方法は2011年には変更されておらず、変更承認の手続きを取ることは必要ない。あまりに奇妙な論理である。

 前述の統計法第9条と第11条の規定は、改正前の統計法の規定を引き継いだものであり、その逐条解説において、申請書の具体的な内容として、それを取り纏めた調査計画(調査要領等)について承認されることを求めている。さらに、「方法とは①自計方式・他計方式、②調査員調査・郵送調査・他の方法③全数調査・標本調査などの具体の調査方式に加え、どのような調査組織(都道府県等)によって行うかである」という解説がなされている。

 報告書によれば、2004年1月以降の調査変更は事務取扱要領に明記されており、当然、調査計画の変更に該当する。したがって、2004年時点で統計法違反行為があったと考えるのが妥当であろう。

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筆者

舟岡史雄

舟岡史雄(ふなおか・ふみお) 信州大学名誉教授

1947年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士過程終了。2012年、信州大学経済学部教授を定年退職。日本統計協会専務理事、政府の統計審議会委員、統計委員会委員などを歴任。著書に『社会・経済の統計学』『家族・世帯の変容と生活保障』など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです