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統計の不正が起きた理由と罪の深さ・下

毎月勤労統計の問題を考える

舟岡史雄 信州大学名誉教授

深刻な政府統計に対する信頼の喪失

 毎月勤労統計の不正の発覚を契機として、総務省がすべての基幹統計を点検した結果、56の基幹統計のうち22で不備が見つかった。その後、厚生労働省から賃金構造基本統計においても誤りがあったとの報告を含めると、約4割の基幹統計で不備があったことになる。

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 しかしながら、賃金構造基本統計の不正を除けば、大半は単純なミスによるものであり、毎月勤労統計のように、承認を得ず調査方法を変更したり、集計手順に問題があるものは無かった。近年、統計は国民にとっての公共財であるとの意識が徹底し、利便性を高めるために統計データに加えて多くの周辺データ(メタデータ)の公表が求められるようになっている。また、公表期日や公表方法をインターネットなどによってあらかじめ公表することを義務づけられたり、オーダーメード集計によるデータを提供したりで、統計行政に従事する担当者の負担は増大している。

 他方、国の統計職員は削減の一途であり、2009年の3916人から2018年には1940人へと半減している。業務が増加する一方で人員が減少する状況は、業務上の軽微な過失を生じさせてもやむを得ないと、同情の念を抱いてしまう。

 統計の不備の主な内容は、調査計画に含まれていた集計事項であるクロス集計の一部が未公表▼結果数値の一部の誤った公表▼1、2日の公表の遅れ▼手続き上の不都合――などである。法人企業統計において、損害保険業についての配当率、配当性向、内部留保率の3項目がインターネット上では公表されていなかったという不備など、大半が重箱の隅を突いて関係省庁が発見したものである。

 これをとらえて、マスメディアは「政府統計に対する信頼が大きく損なわれている」「広がる政府統計の誤り」など、針小棒大な見出しとともに報じている。国の基盤である統計に必要な人員を充当しないから大変な状況に陥っているとのメッセージを、逆説的に伝えていると“裏読み”もできるが、国民の間に政府統計に対する不信を生み出し、助長する方向に作用していることは確かである。世論調査の結果によれば、政府統計が信頼できないとの回答が8割前後に達するとのことである。由々しい事態と言わざるを得ない。

 今日の情報社会において、国民が統計を信頼しないようになり、勘と経験によって意思決定するような事態になるのは大きな不幸である。企業活動で、いわゆるビッグデータを活用して他社より優位な地位を築き上げようとする動きが活発化しているが、その土台には共通の情報基盤である公的統計がある。その土台が信頼を失い揺らぐことで、雇用や投資の意思決定における確かな根拠が失われるのは望ましくはない。

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筆者

舟岡史雄

舟岡史雄(ふなおか・ふみお) 信州大学名誉教授

1947年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士過程終了。2012年、信州大学経済学部教授を定年退職。日本統計協会専務理事、政府の統計審議会委員、統計委員会委員などを歴任。著書に『社会・経済の統計学』『家族・世帯の変容と生活保障』など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです