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日韓関係の悪化は止められないのか?

日韓シンポジウムの女子高生の質問から考えた関係悪化の元凶と改善への提案

高橋 浩祐 国際ジャーナリスト

 Aritra Deb/shutterstockAritra Deb/shutterstock

悪化の一途をたどる日韓関係

 日韓関係が悪化の一途をたどっている。特に2018年秋以降、旭日旗問題や元徴用工訴訟、元慰安婦支援財団の解散、レーダー照射などさまざまな問題が噴出している。

 直近では、韓国の文喜相(ムンヒサン)国会議長による「天皇陛下謝罪」発言が日本国内の反韓感情を煽(あお)り、関係が悪化。安倍首相や韓国の李洛淵(イナギョン)首相をはじめ、日韓の政治家たちが非難や批判の応酬を繰り広げる事態に陥っている。

 日韓の専門家の間では、両国の関係が1965年の国交正常化以来、最悪の状態に陥っているとの見方さえ広がっている。本来なら冷却期間を置いて関係改善の方策を模索すべきだが、そんな暇もないほど、次から次へと問題が発生しているのだ。

 日本による朝鮮半島の植民地支配は74年も前に終わったはずなのに、なぜいまだに日韓は歴史や過去を引きずっているのか。なぜ今になって、日韓関係が政治レベルでこれほどまでに泥沼状態に陥っているのか。今の日韓の険悪ムードに戸惑ったり、嫌な思いをしたりしている人々もきっと少なくないはずだ。

聴衆の胸を打った女子高生の質問

 2月9日、慶應義塾大学である催しがあった。東アジア研究所現代韓国研究センターが開所10周年を記念して開いた日韓の公開シンポジウムである。

 そこで高校2年の日本人女子生徒(17)が発した質問に、多くの出席者は胸を打たれた。政治や軍事などの「ハイポリティックス」における日韓関係の悪化が、どんな影響を子どもたちに与えているか。彼女の問いはそれを鮮明に示していたからだ。

 こちらにその女子高生の質問の音声ファイルがある。ぜひ生の声を聞いていただきたい。なお、音声を公開させていただくことは、この女子高生の許可を得ている。

 質問は以下の通り。

 ○×女子高校2年の○×と申します。
 とても緊張していて、うまく話せるかどうか分からないのですけれども、あの、今、すごく日本と韓国の関係が悪化しているというのを毎日ニュースとかで見てて、私自身、すごく韓国の文化も好きだし、私の友だちにも在日韓国人の子もいたりして、そういう日韓が悪化するニュースで(友だちが)肩身の狭い思いをしているのも見てて、私も心がつらかったりするんですけど、そういう私たちの世代はとても韓国の文化とかに興味がある子が多くて、今の政治を担っている世代は、やっぱり韓国に対して、う~ん、嫌な感情というか、そういう感情があって、韓国の今の政府の世代も、日本に対してあまり良い感情を持っていない世代というのを知って、今の私たちがもし政治を担う世代になったら、どのように変わっていくのかなというのを、どのように変わっていくのかなというか、どのように変わるのかなというのを、予想でもいいのでお聞きしたいなと思います。

 この質問に「大人」はどう答えたか?

 シンポジウムで「大人」の代表として回答した静岡県立大学の小針進教授は、50年間に800万人規模の青少年交流を行った戦後の独仏両国の取り組みを紹介しつつ、「日韓の青少年交流をさらに強化すべきだ」との未来志向の提言を示した。

 小針教授の提言に、会場にいた筆者は大いに得心した。大人たちは、日韓関係で子どもたちにつらい思いをさせるより、子どもたちの未来に向かって、信頼醸成のアクションプログラムを少しでもつくってあげる役目を担うべきではないか。そう思った。

在日韓国人の同級生へのいじめにつらい思い

若い人に人気のKポップのライブハウス=東京都新宿区 若い人に人気のKポップのライブハウス=東京都新宿区
 そもそも女子高生はなぜ、ここまで日韓関係に関心を持ったのだろうか? 興味をひかれ、後日、この女子高生に直接、話を聞いた。

 彼女は、もともと韓国の音楽やドラマなど文化が好きだったが、くわえて小学生の頃の幾つかの「出来事」が、韓国への関心を高めることになったという。具体的には、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁巡視船に衝突した2010年の事件や、2012年の韓国の李明博(イミョンバク)大統領による竹島(韓国名・独島)上陸だ。当時、同級生の在日中国人や在日韓国人の子どもたちが、「お、尖閣」「お、竹島」などと呼ばれ、いじめられていたことに、幼心ながら心を痛めていたという。

 「あの時は何もしてあげられなかった」と悔やみ、韓国や朝鮮半島の問題に関心を持つようになったという。

世論の悪循環をもたらすもの

 日韓シンポジウムでは、慶應義塾大商学部に留学している韓国人学生の発言も印象に残った。

 「韓国のSNSで日本の立場を説明すれば『親日だ!』と批判される。日本のSNSで韓国の立場を説明すれば『在日だ!』などと批判される。どうしたらよいのでしょうか。双方の世論悪化で、悪循環になっている」

 この学生だけではない。今や、韓国を専門にする日本人の学者や言論人が、現況を説明するために、韓国の立場を述べただけで、「親韓だ!」「反日だ!」などと言われる状況にある。前述の小針教授も、こうした状況において生じる「相手国での自国理解者の苦境と離反」の問題を指摘していた。

 筆者は、日韓関係の悪化が進む背景として、一部の政治家や元外交官、そしてメディアの存在が大きいと感じている。国内向けのポーズでナショナリズムを全面に出した日韓の政治家が、互いに強い言葉で責め合い、問題を煽り、助長してきたフシはないか。愛国心は理解するが、ナショナリスティックな発言で人気取りに走るだけでいいのか。本来、政治家には世論の暴走を抑えたり、自重させたりするバランス感覚も必要なはずだ。

 日韓シンポジウムでも、韓国の峨山(アサン)政策研究院の申範澈(シンボムチョル)安保統一センター長が「政治家リスク」を指摘、「日韓ともに政治家のレベルが低くなり、世論や大衆に迎合するという慣行が定着している」と述べていた。政治家だけではない。メディアも、日韓対立を過度にフレームアップし、視聴率主義や発行部数増、ページビュー稼ぎといった商業主義の罠(わな)に陥りがちだ。

 そんななか、日韓関係の改善を目指し、底支えしているのが、昨年は1000万人を超えた日韓の人的往来、民間交流だ。韓国の音楽グループ「TWICE」や「BTS(防弾少年団)」など、若者の音楽文化交流も日韓の架け橋になっている。

文政権が求める「被害者中心主義」

 2018年は、日韓の歴史的な和解の一里塚となる1998年の「日韓パートナーシップ宣言」から20年周年だった。それを経てもなお、日韓関係に歴史問題が影を落とす理由は何か。

 ソウル大学日本研究所の南基正(ナムキジョン)副教授はシンポジウムで、「文在寅(ムンジェイン)政権が慰安婦問題など歴史問題で被害者中心主義という原則を求めている」と指摘した。

 両親が北朝鮮からの避難民で、貧しい家庭に育ち、大学卒業後は人権派弁護士としての道を歩んだ文大統領の生い立ちも、社会的な弱者である「被害者中心主義」に向かわせているとみられる。

 また、1965年の日韓基本条約締結時、政府間で賠償請求権を互いに放棄したものの、韓国社会では、「当時は軍事独裁政権の朴正煕大統領時代。今は市民は強くなった」「道徳的に正義が貫かれるべきだ」との「個人請求権」の意識が高まってきている。これに対し、日本は法を重視し、条約を守られなければ国と国との関係は成り立たないとの立場を貫いている。日韓の社会的なメンタリティーの違いを映した「道徳・正義 vs 法」の対立だけに、解決は難しそうだ。

相性が悪い?安倍首相と文大統領 

首脳会談に臨む安倍晋三首相(左)と韓国の文在寅大統領=2018年9月26日、ニューヨーク首脳会談に臨む安倍晋三首相(左)と韓国の文在寅大統領=2018年9月26日、ニューヨーク
 安倍首相と文大統領の相性の悪さも今の日韓関係の悪化につながっているとみられる。祖父に岸信介元首相、父に安倍晋太郎元外相を持ち、「銀のスプーンをくわえて生まれてきた」名門出の安倍首相。一方、文大統領は「土のスプーンをくわえて生まれてきた」と言われ、反政府の学生運動で刑務所に収監されるほどの挫折を経験した左派。日韓首脳会談は国連総会の場などでのサイドライン(ついで)でしか行われず、日帰りで訪問できる近さにもかかわらず、日韓シャトル外交は2011年12月以来、一度も実施されていない。

 ソウル大学日本研究所の南副教授は、「とうとう2019年の新年の記者会見と施政方針演説の場において、両国首脳が相手に対して最小限の言及もせず無視するという事態が起きた」と指摘。日韓関係が2018年に「管理から放置へと変わった」と述べている。
南北の関係改善に伴い、韓国にとっての日本の政治・安全保障上の重要性が低くなっていることも、日韓の離反を加速する。さらに、国際的な政治力や経済力の増加が韓国の自信につながり、相対的に力が衰退している日本軽視に向かっている面も大いにあろう。

 また、朝鮮戦争の休戦体制を終わらせ、朝鮮半島に恒久平和をもたらしたい韓国に対し、日本は、南北分断を前提に戦略的な均衡を保ってきた北東アジアの安全保障を一気に激変させたくないというのが本音だ。こうした構造的な地殻変動を巡る問題も、日韓関係を根っこから動揺させているとみられる。

韓国はもっと未来志向に

 泥沼化している日韓関係は、果たして改善できるのだろうか。

David Carillet/shutterstockDavid Carillet/shutterstock
 筆者は、
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