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異文化マネージメントから考えるゴーン事件・上

日産の経営・ガバナンスが直面した異文化マネージメント力の問題とは

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

Mr.ビーン? 朗らかな印象だったゴーン氏

日産の最高執行責任者(COO)に就任した直後のカルロス・ゴーン氏。実績主義の人事評価制度などを強調していた=1999年12月15日拡大日産の最高執行責任者(COO)に就任した直後のカルロス・ゴーン氏。実績主義の人事評価制度などを強調していた=1999年12月15日
 1999年5月に日産株の36.8%を保有したルノーの名代として同年10月にCOOに就任したゴーン前会長は、前年度末には2兆円超の有利子負債を抱え、就任直後の決算で7千億円弱の純損失となった日産を、大株主であるルノーの力に頼った強権的な経営で、3工場の閉鎖と2万1000人のグループ人員削減、下請けの整理などを行い、翌年度から純利益に転換させた。2002年度には有利子負債を解消するなど、V字型回復を達成した。

 株主資本主義に基づいた情け容赦ないコストカットが、日産を蘇(よみがえ)らせたのである。しかし、就任当時のゴーン氏と対面した日産の技術者は、氏から、当時「Mr.ビーン旋風」を世界に巻き起こしていたコメディアンのローワン・アトキンソン氏と見間違うほど朗らかな印象を受けたという。このギャップこそが、現在にまで至るフランス移民カルロス・ゴーンの本質なのである。

アメリカ人とはかなり違うフランス人

 ものの考え方や習慣などは、生まれ育った国の文化や宗教に大きく左右される。

 たとえば日本では、その場の雰囲気を読み取れない人間を「KY(空気が読めない)」と揶揄(やゆ)するが、多種多様な移民が住むアメリカ人からすると直截的に言わない方が悪いのであり、「KY」という言葉は理解されない。また、日本では弁護士に「先生」との敬称を使う一方、悪人に味方する場合には「悪徳弁護士」との蔑称を使うが、英語文化圏では依頼人の要請に基づき法律に則って戦う弁護士に良いも悪いもないとの考え方から、日本人が意図する「悪徳弁護士」に対応する単語はない。

 一方、仏INSEADのメイヤー教授が指摘しているように、欧米人の中でもフランス人は少ない説明で本心を伝えるコミュニケーション文化を持ち、白黒をはっきりさせるアメリカ人には解(わか)りづらいとの印象を与える。感情をあまり表に出さないという点では、日本人に近いところもある。

 思考方法も単純明快なアメリカ人とは異なり複雑で、語学や数学などの教育も文法や法則の習得から入る演繹(えんえき)的な色彩を帯びている。アメリカ人の上司がトップダウンで理由を示さず命令を下す傾向が強いのと異なり、フランス人の上司は、なぜそうするべきかの説明をする。ただし、だからと言ってフランス人の上司が解り易いわけではなく、どちらかと言えば気難しいという声が散見されている。

 フランス人は、日本人が「外国人」という場合に最初に思い浮かべるアメリカ人とはかなり違うのである。ちなみに、日本人にとっては「時間厳守」型、「規則遵守」型のドイツ人の方が「馬が合う」のだ。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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