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統計不正を国会で糺す!総理なら悪い数字を見て!

「良い数字はいいから悪い数字を持って来い」という総理ならこんな問題は起きなかった

小川淳也 衆議院議員

衆院予算委で質問する立憲民主党会派の小川淳也氏=2019年2月18日

ここまで米国に隷属しなければ日本の総理は務められないのか

 2月18日衆議院予算委員会で質疑に立ちました。

 今日も本題は引き続き不正統計問題です。

 しかし冒頭、週末の報道等でどうしても気になった点、つまり安倍総理がアメリカのトランプ大統領をノーベル平和賞候補者として推薦した、という記事に大きな違和感を覚えていたので、この点を質しました。

 もちろん北朝鮮問題を含め努力をしていることは、その限りにおいては正当に評価したいと思っています。

 しかしながら、この間のトランプ大統領の内外政策といえば、中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱、イランとの核合意からの一方的な離脱、そしてアメリカ大使館をエルサレムに移転するなどタブーを犯しての中東への混乱、宇宙軍の創設で宇宙も緊張を増すかもしれない可能性、さらにパリ協定からの離脱でこれから人類を襲う最大の脅威である地球温暖化に背を向ける姿。どれ一つとっても、世界に冠たるノーベル平和賞にふさわしい指導者とは到底思えないのです。

 安倍総理からは同盟国の大統領に対して敬意を払うべき、と逆襲を受けた私ですが、やはり、日本国民として、日本国の国会議員として、これをこのまま看過することはできません。

 同時に、むしろここまでアメリカに追従、隷属しなければ、日本の総理大臣は務められないのか、と嘆かわしくなるほどの思いでした。

 米中貿易戦争、自国第一主義、排外主義に壁の建設、決して手本にしたいとは思わない政策ばかりです。一方、アメリカから戦闘機を買えと言われれば大量に買い、ミサイルを買えと言われれば買い、日本製の鉄鋼やアルミに関税をかけられても、我慢するだけで報復関税もない。他国のようにWTOへの提訴もない。

 そして挙句の果てに、俺を(トランプ氏)をノーベル平和賞の候補者として推薦せよ、ここまで日本政治の主体性は踏みにじられるのか、本当に複雑で残念な思いです。

G20サミットの会場で記念撮影に臨むトランプ米大統領(左)と安倍晋三首相=2018年11月30日、ブエノスアイレス

 これから確かに、一国主義で内向的な傾向を強めるアメリカと、アジア太平洋地域において覇権的なパワーを強める中国、この両者のパワーバランスの中で、日本外交は既に前例を踏襲していれば良いという時代ではありません。

 むしろ、極めて難しい立ち位置、方向感に悶絶しながら、進むべき方向性を模索する時代を迎えるでしょう。

 だからこそある意味で、日本こそ腹をくくり、世界における普遍性、世界的における普遍的な価値を、今までそれを担ってきたアメリカにとって代わって訴える、それほどの気概と見識が日本外交には求められるはずだと思うのです。

政府・日銀一体でGDP押し上げへ腐心

 さて、今日も統計問題の本質についてです。

 新たな参考人への質疑や、勤労統計を見直す過程が政治的に歪められたのではないか、との疑念については、長妻さんや大串さん始め、先行打者により質疑がおこなわれました。

 それを見極めた上で、私自身はかねて疑問を持っていた、GDP統計の本丸に少しでもにじり寄りたい、そんな思いで質疑に臨みました。

zhaoliang70/shutterstock.com

 GDPのかさ上げが行われたのは2016年12月、何と一夜にして6%の名目成長を達成し、31兆円のGDPのかさ上げをやってのけたのです。

 この見直しの際、政府が金科玉条のように振りかざすのが、国際基準への適合についてです。

 しかし、よく調べると、実は国際基準に適応した項目は全部で29項目。その中で、GDPへの影響を試算できたものは、すべてが押し上げ要因でした。

 そして一次統計が不存在、など技術的な理由は別として、政策的判断で適用を見送ったのはわずかに1項目。2月4日の質疑で指摘した私学を事業法人に位置付けるという見直し項目でした。そして、この項目こそ、もし適用していれば、最大で0.4%、約2兆円のGDPを押し下げる効果があったのです。

 統計委員会の議事録を見ても、特に日本銀行の担当者から、この0.4%のGDP押し下げ効果は過小評価できない、看過できない、との厳しい指摘が相次いでおり、政府・日銀一体となった、GDP押し上げへの腐心が見て取れます。

 つまり、純粋な技術的判断や政策判断を超えて、正にGDPを上げるのか、下げるのか、この点に大きな関心が寄せられつつ議論が進んだのです。ここに着目しながら裁量的に、国際基準の取捨選択が行われたのです。

 そしてこの国際基準適合以外に、いわゆる「その他項目」で8兆円近いGDPのかさ上げが行われたことも、前回指摘した通りです。

基幹統計見直し53件、そのうちGDP関係が38件

 さらに今回、私が踏み込んだのは、このGDPを推計するにあたり、基礎となるはずの一次統計の見直しに、政治の手が入ったのではないか、という疑惑についてです。

 調べてみると、民主党政権時代に基幹統計が見直されたのはわずかに16件しかなく、そのうちGDP推計に関連するのは、9件しかありませんでした。

 ところが第2次安倍政権発足以降、何と全部で53件の基幹統計の見直しが行われ、そのうちGDP推計に関係しそうなものが、38件もあったのです。

 さらに加えて言えば、そのうちの10件は統計法の原則である各省からの申請主義をすっ飛ばし、正にトップダウン方式で、諮問がないにもかかわらず、統計委員会主導で見直す「未諮問審議事項」という手法がとられていたことが分かりました。

 統計の専門家でない私にも難解な作業でしたが、例えば家計調査について言えば、カードや電子マネー、商品券等による購入記入欄が増えたことで、家計消費が表面上6%増になっていることを、同志の階議員が指摘していました。この点については先に、統計委員会も、「回答に変化が生じ、影響が出る可能性がある」と指摘していた点です。

 さらに個人企業調査においては、それまでの「製造・卸、小売、宿泊、飲食サービス」といった4業種を対象に調査していたものを全産業に拡大しました。飲食やサービスの賃金は比較的低いだけに、全産業に拡大したことで平均賃金が上昇するのではないかと思われます。また同時に、この調査においても、いわゆる全数入れ替えから、一部入れ替え制に移行されることとなったので、これも数値は高めに出るでしょう。

Champ008/shutterstock.com

 さらに科学技術調査においては、「任期のない研究者」を調査対象として新たに追加するとともに、「サービス」に関する研究開発費を新たに項目として追加しました。この点についても統計委員会は、「従前の集計結果との間に断層ができる可能性があり、影響の検証が必要」と指摘しています。

 さらに作物統計では、調査対象にそばと菜種が追加され、主要生産県の増減のみで、全国生産量を推計する方式が取られました。これにより3%程度の数値の変動が確認されています。

 木材統計では47都道府県調査から、主要取扱い30県のみの調査に切り替えられ、調査対象が比較的大規模化することになります。

 鉄道車両生産統計では、従業員10名以上の94事業所が調査対象であったのに、この制限をはずして207事業所全てを調査対象に拡大し、この点についても統計委員会は「誤解を招かないよう適切な対応」を求めています。

 さらに商業動態調査では、家電量販店やドラッグストア、ホームセンターを調査対象事業所として追加しており、結果として10兆円以上の数字が積み上がるのではないかと見られます。

 また住宅リフォームにおいても、6兆円とも言われる市場調査が進められており、これもやがて統計に反映されることになるでしょう。

 こうした統計改善を、私は必ずしも全否定している訳ではないのです。もちろん時代に合わせて、現代技術を駆使して、それこそ「統計の精度」を上げていくことは必要な改革なのです。

 しかし大切なことは、これに政治色がついてはならないということ。同時に統計手法を変えるのであれば、何をどのように変え、それが数値にどのように影響したのか、詳細な説明責任が求められるということです。

 そして、新しい統計数値と、古い基準で行われた統計数値との間に、どのような差異が認められ、それが何を意味するのか、検証できるように、また正確に国民に説明する責任があるということなのです。

 ましてや、その点を曖昧にしたまま、あたかも自らの経済政策の成果であるかのように数値を、誇張したり、宣伝に使うことは、政策的にも道徳的にも許されないということです。

景気が良くなったから外で働く人が増えたという単純な話ではない

 最後は、総理がよく議論する「総雇用者所得」について議論が及びました。

 総理は雇用を作った結果、就業者が増えた、ということをよく強調します。しかし増えた雇用約400万人のうち、3割以上は65歳以上のお年寄り、半分近くが15歳から64歳の主婦やパート勤めをする女性、そして2割は、高校生や大学生というのが実態です。

 どう考えても、景気が良くなったから外で働く人が増えた、というような単純な話ではないと私には思えるのです。

 低年金や無年金に苦しむお年寄り。子育てに追われ、子どもたちの教育費を補うために、給料が下がりがちな旦那さんと共に、外で働かざるを得ないパートの女性。重い奨学金負担を背負い、仕送り収入が少ない中で、アルバイトに精を出さざるを得ない高校生や大学生。

kwest/shutterstock.com

 私にはそんな姿こそが目に浮かぶのです。しかし、総理は景気の回復・拡大期には、まず低賃金の非正規雇用が増え、やがてそれは正社員として待遇が改善・上昇していくという、成長期の夢物語のようなことを繰り返し言うのです。

 ちなみに、現在、物価上昇に賃金上昇が追いつかないため、いわゆる実質賃金(実際に国民が使えるお金)は減少しています。したがって、現在は戦後最悪の消費不況である、という指摘をする専門家もいるほどです。

 ちなみに、2014年から16年にかけて3年連続で消費が減退したのは戦後初のようですし、2017年は少々回復したとはいえ、遡ること4年前の2013年にも及ばない、つまり4年前の数値と比較して、それ以下に低迷するというのも、戦後初のようなのです。

 総理は、アベノミクス開始時、デフレ脱却で物価上昇を声高に主張しました。それがままならないとなると、今度は有効求人倍率や賃金の上昇を主張し始めました。さらに、それがままならなくなると、今度は、国民の総所得で見るべきだと、どんどんアピールポイントを変遷させているように感じます。

安倍家は家庭円満で安定しているかもしれないが…

 この「総雇用者所得」、つまり国民全員みんなで稼いだ所得、について、実は私は慎重に見るべきだと考えています。

 典型的な国会答弁で、安倍総理は言いました。「例えば安倍家において、私が30万円の収入を得ていて、女房が景気が良くなったので、どこかでパートに出て10万円の収入を得たとする。すると安倍家全体としては、合計40万円で収入が増えるが、ふたりを平均すれば一人20万円に減ってしまう。今まさに起こっているのはこの現象だ」と。

 従って、一人当たりの名目や実質賃金で見るのではなく、雇用者全部で稼いだ、「総雇用者所得」で見るべきだというのです。

衆院予算委で小川淳也氏の質問に答弁する安倍晋三首相=2019年2月18日

 私は、この総理の国会発言には、二つの嘘が隠れていると思っています。

 一つ目は、安倍家で奥様が、景気が良くなったからパートに出る、というのは本当かという点です。むしろ、例えば離婚、死別、シングルマザー、ご主人のリストラ、子供の教育費、こうしたかさむ費用を少しでも補うために、限られた時間をやりくりし、一生懸命パート収入を稼ぎに外に出ざるを得ないご婦人が圧倒的に多いのではないでしょうか。

 もう一つの嘘は、安倍家は家庭円満で、世帯として安定しているのかもしれませんが、世の中はそんな世帯ばかりではないということです。実は単身世帯を含めた少人数世帯がどんどん増えているのです。

 実際に日本では、人口が減り続けているにもかかわらず、世帯数は一貫して増え続けています。かつて1世帯あたり5人だった日本の世帯人員は、今や2人強にまで減っているのです。

 そうなると一体何が起きるのか。生活は、家賃や光熱費といった固定費に圧迫され、国民生活は苦しくなり続けるということです。

 ちなみに調べてみると、世帯当たり1人で生活している方の平均生活費は1ヶ月16万円。2人世帯だと合計で25万円。3人だと29万円。4人だと32万円。5人だと34万円。世帯人員が増えれば増えるほど一人当たりの生活コストはぐんと下がり、少人数世帯になればなるほど、一人当たりの生活費は各段に増えるのです。

 この変化に目を向けていれば、単純に、国民の「総所得」が増えればいい、なんていう短絡的な話にはならないはずです。つまり、そこにこそ国民生活の真の姿に寄り添っていない総理の姿が明らかに浮き出るのです。

「良い数字はいいから悪い数字を持って来い」という総理だったなら…

 私は今回、統計や様々な数値に懸命に体当たりしながら、データを集め、議論と格闘してきました。

 しかし、ある時、ふと、なぜこの政権とこんな数値論争をし続けているのかと、疑問に思う瞬間があったのです。

 結局、もしこの国の総理大臣が「良い数字はいいから、悪い数字を持って来い。そこに国民の苦しい生活や、社会の様々な矛盾が隠れてはいないか」と言う総理大臣であれば、そもそも、こうした表面的で表層的な数値論争に陥るはずもない、そう思ったのです。

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