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クリーンエネルギーで世界に遅れる日本

日本は世界とのギャップを埋めることが急務だ

平沼光 東京財団政策研究所 研究員

 パリ協定の発効により、世界のエネルギー動向は化石燃料への依存から脱却し、再生可能エネルギー(以下 再エネ)を大幅に普及させるエネルギー転換の方向にあることはもはや周知のことであろう。パリ協定の目標である世界の平均気温上昇を2度未満に抑えるシナリオとして国際エネルギー機関(IEA)が示した450シナリオでは、2040年の再エネ発電電力量比率は約60%にまでも引き上げる必要があるとしている。こうした潮流のもと、既にドイツでは、昨年の全発電量における再エネの比率が40%を超えたなど、様々な国において再エネの普及が進みつつある。

artjazz/shutterstock.com

 さらなる再エネの普及に向けて、先進諸国をはじめとする世界は、高効率再エネ発電施設や、再エネを安定して導入するための系統安定化システムなど、再エネを中核としたクリーンエネルギー分野といわれる様々な設備やシステムを、単なるコンセプトや実験ではなく、実社会への実装を進めるという段階に入っている。一方、日本は福島第一原子力発電所事故から約8年を経た現在においても、クリーンエネルギーの社会実装どころか再エネの普及率も将来的な普及目標も先進諸国と比べ見劣りし、世界の動向から大きく遅れている状況にある。

 本稿では世界で進んでいるクリーンエネルギーの社会実装の事例を紹介するとともに、日本の状況と課題を考察する。

ICTによる高度化を進める欧州

 2019年1月、スペインを本拠にグローバルにビジネスを展開している電力大手のイベルドローラ社(Iberdrola)から興味深いニュースが公表された(Iberdrola HP “Iberdrola uses blockchain to guarantee that the energy it supplies to consumers is 100% renewable”)。イベルドローラ社では、ブロックチェーンのプラットフォームである「Energy Web Foundation」を活用し、自社の風力、太陽光発電施設で発電した電力が取引先に供給されるまでをリアルタイムで追跡することに成功。それにより、消費者に供給される電力が100%再生可能エネルギーであることを保証することを可能にしたとのことだ。また、電力系統のマネジメントにブロックチェーン技術を活用することで、発電場所と供給場所の指定や、優先する供給源の決定などにも役立つとしている。

イベルドローラ社のエネルギーコントロールセンター=筆者撮影

 ブロックチェーンなどのICT(情報通信技術)を活用して再エネの導入を促進するエネルギーマネジメントシステムの開発は今に始まったことではない。既に欧州では2011年に、各国の大手電力会社、ICT関連会社、大学・研究機関などが参加し、スマートグリッドにおける発電予測制御・最適化のためのICT開発とその国際標準化を目的とした実証実験を行うFINSENY(Future Internet for Smart Energy)というコンソーシアムが組織され、AI、IoT、Big Dataなどを駆使したIoE(Internet of energy)と呼ばれる革新的なエネルギーマネジメントシステムの開発、普及に取り組んでいる。もちろん、イベルドローラ社もFINSENYにメンバーとして参加しており、ブロックチェーンによる100%再エネ供給保証の実現はそうした技術開発の一端といえ、ICTによる高度なエネルギーマネジメントシステムの社会実装が着実に進んでいる。

実現したモビリティーとエネルギーの融合

 ICTを活用したエネルギーマネジメントシステムの開発は、モビリティーとエネルギーの融合というイノベーションも実現している。再エネが大幅に普及する社会では天候により余剰電力が発生したり、発電量が落ちたりする再エネの変動性をコントロールする必要がある。そのためにはICTを活用し、電力系統に電気自動車(EV)を接続させ、再エネによる余剰電力が発生した際にはEVの蓄電池に充電し、逆に電力が不足した際にはEVからの放電により系統に電気を戻すV2G(Vehicle to Grid)と呼ばれる技術を導入することが有効とされている。市中に存在する車両の全てが常に走行状態にあるわけではく、多くの車両が駐車状態にあることから、EVを普及させることで駐車中のEVを電力系統の蓄電池として活用するという発想である。

V2G(Vehicle to Grid)概要

 V2Gによって系統安定化に寄与するEVユーザーには、エネルギーシステムの管理者から系統安定化報酬が支払われることになり、EVユーザーは電力代と相殺することができるという革新的なものだ。実際、昨年3月に開催されたジュネーブモーターショーでは、欧州日産自動車の会長が、「我々の究極の目標は独電力大手のE.on社との提携によりV2GでEVユーザーにコストフリーの電力を供給することにある」という趣旨のコメントを発表している(NISSAN NEWS〈2018/03/06〉)。

 こうしたモビリティーとエネルギーを融合させた革新技術のV2Gは、既にデンマークのコペンハーゲンで社会実装が行われ、2016年から商業運転が始まっている。また、昨年10月には日産自動車のEV「リーフ」が、EVとして初めて予備電力としてドイツの電力系統への接続を認められるなど、実社会への実装が進んできている。

再エネの選択肢を広げた浮体式洋上風力発電

 再エネのあらたな発電方法の社会実装も進んでいる。これまで風力発電は陸上に設置する陸上風力と海底に基礎を築いて設置する着床式洋上風力発電の二種類が選択肢であったが、あらたな選択肢として海上に風車を浮かべて発電する浮体式洋上風力発電の実装が実現している。

 再エネの大幅普及を目指すにはさらなる再エネの可能性を発掘する必要があり、中でも注目されているのが洋上風力発電である。陸上風力の設置場所が飽和状態に近づきつつある中、設置面積や景観の制約が少なく、陸上に比べて風況のよい洋上は風力発電の次のステージと期待されているのだ。しかし、洋上風力資源のおよそ8割が水深が深く海底に基礎を築くことが出来ない海上にあり、洋上風力のポテンシャルを活かすことは困難であった。

デンマークのアンホルト洋上風力発電所=2017年1月

 そうした中、ノルウェーに本拠を置く北欧最大のエネルギー企業であるエクイノール社(Equinor)と再エネ事業やスマートシティ事業を手掛けるアラブ首長国連邦(UAE)・アブダビのマスダール社(Masdar)との事業提携により、風車を海上に浮かべて発電を行う浮体式の洋上風力発電所「Hywind Scotland」の商業運転が2017年10月18日から開始されている。「Hywind Scotland」はスコットランドの沖合25kmの地点に、出力6MWの浮体式の洋上風力発電を5基設置した発電所で、イギリスの約2万世帯への電力供給を可能とする大規模な浮体式洋上風力発電を実用化した世界初の事例である。

 浮体式であれば水深が深い場所でも発電が可能になり洋上風力のポテンシャルを活かすことに有効である。エクイノール社によれば、2017年11月から2018年1月までの3か月間における「Hywind Scotland」の設備稼働率は約65%という好成績を記録したとのことだ。

 この間、「Hywind Scotland」はハリケーン「オフィーリア」(風速125km/h)、ハリケーン「キャロライン」(風速160km/h)という2つの大型ハリケーンの直撃にも耐えたと発表している。

 エクイノール社とマスダール社は、浮体式洋上風力発電の商業化の成功により、浮体式洋上風力発電の電力コストを2030年までに価格競争力のある0.04~0.06€/kWhに引き下げることも目指しており、コスト的にも更なる社会実装化が期待できる。

表面化してきた日本の遅れ

 前述のように世界ではコンセプトや実証実験という段階を終え、様々なクリーンエネルギーを実用化していく社会実装の段階に入っているが、日本の状況はどうであろうか。

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