ICTによる高度化を進める欧州
2019年1月、スペインを本拠にグローバルにビジネスを展開している電力大手のイベルドローラ社(Iberdrola)から興味深いニュースが公表された(Iberdrola HP “Iberdrola uses blockchain to guarantee that the energy it supplies to consumers is 100% renewable”)。イベルドローラ社では、ブロックチェーンのプラットフォームである「Energy Web Foundation」を活用し、自社の風力、太陽光発電施設で発電した電力が取引先に供給されるまでをリアルタイムで追跡することに成功。それにより、消費者に供給される電力が100%再生可能エネルギーであることを保証することを可能にしたとのことだ。また、電力系統のマネジメントにブロックチェーン技術を活用することで、発電場所と供給場所の指定や、優先する供給源の決定などにも役立つとしている。

イベルドローラ社のエネルギーコントロールセンター=筆者撮影
ブロックチェーンなどのICT(情報通信技術)を活用して再エネの導入を促進するエネルギーマネジメントシステムの開発は今に始まったことではない。既に欧州では2011年に、各国の大手電力会社、ICT関連会社、大学・研究機関などが参加し、スマートグリッドにおける発電予測制御・最適化のためのICT開発とその国際標準化を目的とした実証実験を行うFINSENY(Future Internet for Smart Energy)というコンソーシアムが組織され、AI、IoT、Big Dataなどを駆使したIoE(Internet of energy)と呼ばれる革新的なエネルギーマネジメントシステムの開発、普及に取り組んでいる。もちろん、イベルドローラ社もFINSENYにメンバーとして参加しており、ブロックチェーンによる100%再エネ供給保証の実現はそうした技術開発の一端といえ、ICTによる高度なエネルギーマネジメントシステムの社会実装が着実に進んでいる。
実現したモビリティーとエネルギーの融合
ICTを活用したエネルギーマネジメントシステムの開発は、モビリティーとエネルギーの融合というイノベーションも実現している。再エネが大幅に普及する社会では天候により余剰電力が発生したり、発電量が落ちたりする再エネの変動性をコントロールする必要がある。そのためにはICTを活用し、電力系統に電気自動車(EV)を接続させ、再エネによる余剰電力が発生した際にはEVの蓄電池に充電し、逆に電力が不足した際にはEVからの放電により系統に電気を戻すV2G(Vehicle to Grid)と呼ばれる技術を導入することが有効とされている。市中に存在する車両の全てが常に走行状態にあるわけではく、多くの車両が駐車状態にあることから、EVを普及させることで駐車中のEVを電力系統の蓄電池として活用するという発想である。

V2G(Vehicle to Grid)概要
V2Gによって系統安定化に寄与するEVユーザーには、エネルギーシステムの管理者から系統安定化報酬が支払われることになり、EVユーザーは電力代と相殺することができるという革新的なものだ。実際、昨年3月に開催されたジュネーブモーターショーでは、欧州日産自動車の会長が、「我々の究極の目標は独電力大手のE.on社との提携によりV2GでEVユーザーにコストフリーの電力を供給することにある」という趣旨のコメントを発表している(NISSAN NEWS〈2018/03/06〉)。
こうしたモビリティーとエネルギーを融合させた革新技術のV2Gは、既にデンマークのコペンハーゲンで社会実装が行われ、2016年から商業運転が始まっている。また、昨年10月には日産自動車のEV「リーフ」が、EVとして初めて予備電力としてドイツの電力系統への接続を認められるなど、実社会への実装が進んできている。