安倍首相がトランプ大統領を推薦したのは誤ったメッセージを世界に発することになる
2019年02月20日
トランプ大統領は2月15日の記者会見で、北朝鮮問題についての実績を語る中で「安倍首相が自分をノーベル平和賞の候補として推薦する書簡をノーベル平和賞委員会に送った」旨を述べた。
このニュースは日本及び米国を中心に、その真偽を疑う、あるいは真実とすればその妥当性を疑う声が沸き起こった。ワシントンポスト紙は、皮肉交じりに「本当に安倍首相が推薦したのか、それとも文大統領か?」と書いた。
安倍首相自身は2月18日の衆議院予算委員会で「ノーベル賞委員会は、推薦者名や被推薦者名を50年間は明らかにしない。従って本件はノーコメントだが、事実ではないとは言っていない」とした上で「北朝鮮問題に関するトランプ大統領のリーダーシップを高く評価する」と答弁した。
真実はどこにあるのであろうか?
いくらトランプ大統領でも、推薦した人が安倍首相か文大統領かを取り違えることは考え難く、また安倍首相の国会答弁を見ても、自分が推薦状を送ったことをいささかも否定していないので、トランプ発言の内容はまず事実と見て間違いないと思う。
安倍首相による推薦状発出の時期は明らかにされていないが、昨年6月の米朝首脳会談のしばらく後と推定されている。
今年のノーベル平和賞に、紛争下の性暴力根絶に努めた医師と活動家が選ばれたことは、真に平和賞にふさわしいと喜びたい。
ロンドンのブックメーカーで事前の評判が最も高かったのが、韓国の文在寅大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、そしてトランプ米大統領だったことには、がくぜんとさせられた。そもそも6月の米朝首脳による共同声明は、朝鮮半島を非核化する時期やその検証方法など、決定的に重要な事柄に言及がない極めて内容の薄い合意だった。
これはトランプ大統領による妥協と受け取られているが、その理由の一つは、史上初の米朝首脳会談を成功させたという業績を作り、ノーベル平和賞の受賞と中間選挙の勝利を経て、大統領再選に弾みをつけることだと取りざたされていた。米朝首脳会談が開かれたシンガポールから帰国したトランプ大統領を迎えた支持者たちが「ノーベル、ノーベル」と連呼する姿は異様だった。
自然科学系の分野と異なり、ノーベル平和賞、文学賞、経済学賞は、業績の評価に客観性をもたせることが容易ではない。特に平和賞は基準が必ずしも明確でなく、授賞の妥当性が後に大きく問題とされたケースは少なくない。国際紛争の平和的解決が授賞理由なのに、後にその平和が崩壊したり、平和構築に本当に貢献したのか疑問を呈されたりすることもあった。
1973年には、ベトナム戦争を終結させたパリ和平協定を理由に、米国のキッシンジャー氏と北ベトナム(当時)のレ・ドク・ト氏が平和賞に選ばれたが、レ・ドク・ト氏はまだ平和は達成されていないとして辞退。その後、パリ協定を破って南に侵攻してベトナムを統一した。
94年には、イスラエルのラビン首相、ペレス外相、パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長がパレスチナ和平合意の功績で選ばれたが、その後の中東情勢は平和どころかますます混沌としている。佐藤栄作首相は非核三原則を提唱し、オバマ米大統領は「核なき世界」を呼びかけたが、それ自体がどれだけ世界平和に貢献したのかは疑問なしとしない。
政治家は国際平和に努めることが当然に求められている。しかしそれが授賞理由になると、ノーベル賞そのものを目的とした近視眼的な行動に走らせる恐れがある。
これを避けるには、平和賞は政治家を除くという明確な基準を設けるべきではないか。シュバイツァー、マーティン・ルーサー・キング、マザー・テレサといった流れを受け継いで、草の根の立場から平和に貢献した人に贈られるべきだ。
私がこの記事で伝えたかったことは以下の2点である。
一つは、北朝鮮の核兵器のもたらす日本の安全保障上の危機は、日本を飛び越える長距離ミサイルの開発ではなく、既に北朝鮮が200発以上も保有するとされる短、中距離ミサイルと核弾頭の存在であること。従ってもし長距離ミサイルの開発が中止されても、既存のすべてのミサイルと核弾頭が廃棄されなければ、日本の安全には大きな危険が継続する。
二つは、政治家をノーベル賞受賞の対象とすると、短期的な功を焦って究極的な平和の構築とはかけ離れた成果を目指すことになりかねないことを、過去のノーベル平和賞受賞が物語っていることである。
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