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田中均氏が米朝首脳会談を展望する

そろそろ「圧力」から「対話」へ。受け身の対応を繰り返せば日本は孤立する

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

⽥中均・⽇本総研国際戦略研究所理事⻑

金正恩氏は若い。今後50年統治するつもりなら…

 2月27日、28日にはベトナムで二回目の米朝首脳会談が開催される。

 北朝鮮の核廃棄に向けて具体的な一歩を踏み出すことが出来るのか、それとも再び抽象論でおわるのか。非核化に向けての期待が一気に冷め、再び朝鮮半島に緊張が戻ることも十分考えられる。米朝首脳会談を前に現状をできる限り客観的に分析・評価してみよう。

 米国の情報当局や軍幹部、更には北朝鮮から亡命した外交官などは北朝鮮が核兵器を放棄することなどありえないと論ずる。確かに経済的停滞で国力の衰えた北朝鮮が、韓国や米国さらには中国との関係でも抑止力を持ち得るためには核兵器保有しかないと考えているのだろう。

 しかし問題は、核を保持し続けて生き残れるか、ということだ。

 金正恩国務委員長は若い。これからおそらく50年でも統治していくつもりだとすれば、自身が掲げる「核と経済開発の並進路線」が最良の選択と考えているのだろう。

 ただ核を保有していては開発に必要な外国の支援は得られない。だとすれば核を段階的に廃棄し、見返りに安全と経済支援を得る道を選んだとしても不思議ではない。

 だからといって北朝鮮が現段階で核を全面的に廃棄する決断をしている訳ではなかろう。当面、プルトニウム型核爆弾製造は放棄しても濃縮ウラン型核爆弾製造は保持し続けるといった考えなのではないか。

北朝鮮が最も強く望む「経済制裁の緩和」

 従来米国や日本が主張してきた包括的で完全な核廃棄に向けて、すべての核関連施設の申告・査察・検証できる廃棄といった道筋をたどることが最善であることは間違いがない。しかし、段階的な核廃棄といえども、核の完全廃棄に向かう道筋に向けて段階的に廃棄ということだとすれば、拒否するには当たらない。

 トランプ大統領は非核化を急がないとあえて発言している。従っておそらく米国が考えるのは北朝鮮側の当面の行動(例えば寧辺のプルトニウム施設や大陸間弾道弾の廃棄)に対して、限定的で、将来北朝鮮がごまかせば撤回できる措置を考えるという事なのだろう。

 だとすれば直ちに朝鮮戦争の終戦宣言に至ることはない。終戦宣言は国連軍の解体や在韓米軍存在の是非などについて恒久的なインプリケーションを持たざるを得ないからだ。

 ただ、今後の協議の仕組みを決めることはあり得るのだろう。朝鮮戦争の当事者である南・北・米・中の4者で協議していくと喧伝されるが、国連軍の後方司令部は横田基地にあり、朝鮮半島の平和・安全のため日米安保体制が果たす役割を考えれば、日本も関与しなければならない。

ホワイトハウスで会見するトランプ米大統領=2019年2月15日、ワシントン

 経済制裁の緩和は北朝鮮が最も強く望むところなのだろう。北朝鮮だけではない。韓国、中国、ロシアなどは各々異なる目的で制裁緩和を支持している。

 韓国の文在寅大統領は市民運動家の出身であり、南北融和を政治信条とし、その具体化のために南北間で経済協力を推進したいという思いは強い。現在準備が進んでいる開城(ケソン)工業団地の再開、金剛山観光の再開、南北鉄道連結等のプロジェクトは経済制裁の例外とされない限り実施できない。文在寅大統領は、実施の見通しをつけたうえで3月末にも金正恩委員長のソウル訪問を実現したいと考えていよう。

 中国は国内の格差是正のためにも北朝鮮に隣接した地域と一体で開発を進めたいと考えているようであり、例えば国境の町の丹東から平壌(ピョンヤン)への高速鉄道などの計画があるようだ。ロシアもシベリア鉄道の連結など関心を示している。

「圧力」から「対話」へ切り替える時期

 昨年6月12日に行われた第一回米朝首脳会談で合意されている米朝の新しい関係を象徴する意味で平壌に米国政府連絡事務所を開設するという合意はあり得るのではないか。

 そもそも1994年の米朝枠組み合意でも基本合意がされているところで、実現に大きな障害はないし、米国にしてみれば北朝鮮核廃棄の検証作業にも恒常的な連絡事務所は必要となる。

 もしこれが実現すれば6カ国協議を構成していた日・米・韓・中・露のうち恒常的な連絡事務所がないのは日本だけという事になる(中露は大使館、韓国は開城に連絡事務所を設置済み)。

 はたして日本はどういう姿勢をとるべきか。

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