山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
二つの住民投票から見えてくるチグハグな沖縄の防衛政策。政府に自覚はあるのか
2月24日、米海兵隊普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古沿岸の埋め立て工事の賛否を問う県民投票の投開票が行われた。県民の約53%が投票して、「反対」43万4273票、「賛成」11万4933票、「どちらでもない」5万2682票という結果だった。投票者の約72%を占める反対票は、2018年の沖縄知事選で玉城デニー氏が得た過去最多39万6632票を上回った。県内の全有権者の約38%が反対の意思表示をしたことになる。
日米地位協定見直しと米軍基地整理縮小の賛否が問われた、1996年9月8日の県民投票では、投票率は約60%で全有権者の約53%が賛成に入れた。96年と比較して、今回の県民投票の投票率と「基地ノー」の率が下がった理由として、政治学者の江上能義氏は2月25日付琉球新報で、公明党が賛成から静観に転じたことを挙げている。卓見だが、くわえて時期が悪かったことも指摘しておきたい。
期日前投票が始まった2月14日から投開票日の24日にかけて、ビジネスマンは年度末の繁忙期のうえに、予算消化のための出張が入った。大学生は春休みで、一日中バイトか、就職活動の準備を始めていた。高校3年生と浪人生は大学入試の真っ只中だった。
学者や報道関係者ら政治に携わる人間はすべてを政治で説明しがちだが、大多数の人々は政治よりも日常生活に追われているのである。
賛否の「2択」だった96年と異なり、「どちらでもない」が加わって「3択」となったことは、今回の県民投票結果にどれほど影響したのだろうか。
「どちらでもない」は票数の約9%、全有権者の4.5%にとどまる。仮に条例制定時のまま「2択」で県民投票が行われ、この票数が全部反対に流れたとしても、反対票は有権者の約42%でやはり過半数に届かない。より詳しいデータと専門家の検証が必要だが、現時点では影響はほぼなかったように見える。
今回の県民投票の重要なポイントは、自公支持層もその多くが反対票を投じたことだ。朝日新聞が実施した出口調査によれば、自民支持層の45%、公明支持層の55%が反対を選んだと回答している。投票率よりもむしろ、保守層も含めて反対の民意が示されたことのほうが、4月に衆議院選挙補選、7月に参議院選挙を控える与党にとっては無視できない結果であり、痛手といえよう。