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矛盾に満ちた辺野古移設に示された沖縄の「ノー」

二つの住民投票から見えてくるチグハグな沖縄の防衛政策。政府に自覚はあるのか

山本章子 琉球大学講師

石垣島の住民投票署名運動

 先日、バニラエアが「那覇―石垣便・980円セール」をやっていたので、思わず購入した。石垣島は、米も野菜も肉も魚も、何を食べてもおいしい。ニューヨークと京都にしかないマリベル・チョコレートの系列店もあるし、ヘリーハンセンの石垣限定Tシャツやトレーナーも買える。外から来た人の目には、沖縄本島よりも豊かにさえ見える。破格値で行けるなら、行かない手はない。

「石垣島住民投票を求める会」の事務所。条例案否決を受けた記者会見で一度使われたきり閉ざされていた=2019年2月12日、筆者撮影拡大「石垣島住民投票を求める会」の事務所。条例案否決を受けた記者会見で一度使われたきり閉ざされていた=2019年2月12日、筆者撮影
 島内を観光していた私は、中心街の桃林寺周辺でふと足を止めた。暗がりで不意に目に飛び込んできたのは、緑地に白で「石垣市住民投票を求める会」と書かれた、何本もののぼり。閉ざされたガラス戸の向こうにしまわれていた。

 ガラスにはりついた大きな模造紙には、棒グラフと折れ線グラフで表された、住民投票条例制定を求める署名数の推移が書かれていた。15日目には計約4000筆だったのが、署名運動最終日の31日目には総計1万5135筆に達している。地方自治法による条例制定に必要な署名数は石垣市有権者の50分の1である約800筆だから、その約20倍。全有権者の約4割もの署名を集めたことになる。

 実は、石垣島では2018年10月31日から1カ月間、20代の3人の若者が中心となって、平得大俣地区への陸上自衛隊(陸自)配備計画の賛否を問う住民投票を実現しようと署名を集めた。地方自治法ではなく市の自治基本条例にのっとり、有権者の4分の1以上の署名を目標に設定、実現した。

 だが住民投票条例案は2月1日、石垣市議会で可否同数となり、平良秀之議長が議長裁決で否決を決めた。皮肉にもその日が、「石垣市住民投票を求める会」の事務所開きだった。私が見たのは、条例案否決を受けた記者会見の場として一度使われたきり、閉ざされた事務所であった。

着々と進む自衛隊の南西配備

 石垣島滞在中、防衛省沖縄防衛局による陸自駐屯地の建設工事に関する住民説明会が行われたので、会場を訪れた。防衛局担当者と住民との緊迫した質疑応答は、日本の防衛政策の矛盾が辺境の島に凝縮されていることを、はからずも象徴していた。

 2016年3月から与那国島には約160名の陸自沿岸監視隊が駐屯。16年10月からは奄美大島に約550名、17年11月からは宮古島にも約700〜800名の陸自警備部隊・地対艦空誘導弾部隊を駐屯させるべく、建設工事が進められている。くわえて、石垣島にも奄美大島、宮古島と同じく陸自部隊約500〜600名を駐屯させる計画だ。

 これら南西諸島への陸自配備計画は、民主党政権下の2010年に改定された「防衛計画の大綱」(防衛大綱)で登場した。尖閣諸島をめぐる日中間の対立が高まったのを機に、「自衛隊配備の空白地域」である南西諸島への配備の必要性が打ち出され、13年改定の防衛大綱に引き継がれる。力の空白は敵の侵入を許しやすい、という古典的な安全保障の考え方にもとづく。

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筆者

山本章子

山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学講師

1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。

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