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米中「新冷戦」の公算と日本がとるべき道

日本、世界に大きな影響をもたらす米中貿易戦争。懸念は日本に忍び寄る孤立主義

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

中国は米国と正面から戦いを挑めない

 米中対立を捉えるうえでは、まず二カ国それぞれの国益や国内事情を探る必要があります。

演説する習近平国家主席=2018年12月18日、北京の人民大会堂拡大演説する習近平国家主席=2018年12月18日、北京の人民大会堂
 中国では習近平政権が権力基盤を維持するうえで、持続的な成長と反腐敗政治闘争がカギとなります。持続的な安定成長が見込めなければ、政権の正統性は低下しますし、反腐敗政治闘争を緩めれば、ライバルの出現を許すことになる。そうした意味で、現状経済にリスク要因を抱える中国としては、米国市場に圧倒的に依存した経済に付け込んで米国が貿易戦争を仕掛けてくるのに対して、正面から戦いを挑めないという事情があります。

 しかも、客観的な国益からしても、現在強力な軍事大国であり、中国経済にダメージを与える力を持つ米国に正面から立ち向かうよりは、米国が嫌になって「意気揚々と」撤退するのを待つほうが得策であり合理的であるという考え方が、米国を良く知る中国の専門家の間には存在します。それはいわば、「熟した柿がぽとりと落ちるように」覇権を手に入れようという考え方であり、覇権争いの際に、後発覇権国の側が先に攻撃するインセンティブは実際には少ないとする学説にも基づいています。

米中陣営ではじまる?緩やかな「囲い込み」

 他方、米国を見れば、経済力において中国に負けつつあるのではないかという懸念が貿易戦争をけん引しており、技術覇権を譲らないという固い決意のほどが窺(うかが)えます。しかし、ここで気になるのは、米国が中国と競争するうえで持つ強みはどこにあるのかという点です。

ホワイトハウスで会談するトランプ米大統領(左)と中国の劉鶴副首相=2019年2月22日、ワシントン拡大ホワイトハウスで会談するトランプ米大統領(左)と中国の劉鶴副首相=2019年2月22日、ワシントン
 米国が中国に対して持っている最大の強みは、自国と同盟国のマーケットを足し合わせた購買力です。とすれば、日本をはじめとする米国の同盟国が、中国との競争のテコに使われ、踏み絵を迫られる事例が増えてくる事態が容易に想像されます。HuaweiやZTEなどの製品に対する安全保障懸念のリスクについての米国の動きは、その赤裸々な実例と言えるでしょう。

 日本が、経済面で高付加価値の分野を得意としており、安全保障では米国に依存しきっている以上、踏み絵を迫られた場合には、米国に付き従う以外の選択肢は存在しません。また、ごく一部の先端技術や安全保障の懸念がある分野においてはじまった「囲い込み」は、政治家たちが思うよりも速いペースで他の分野にリスクをもたらす形で波及していくものです。現にHuawei製品についてのリスク認識の広がりは、政府調達に限らず実業にも影響を及ぼしはじめています。

 米国が同盟国の緩やかな囲い込みを本格化すれば、米国市場に過度に依存してきたことによって生じた「脆弱(ぜいじゃく)性」を悔いているであろう中国は、自足的な経済圏の構築に血道をあげるはずです。結果的に、双方の陣営で緩やかな囲い込みが広がっていき、それが日本経済にダメージを与えるであろうことが予想されます。

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筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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