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米中「新冷戦」の公算と日本がとるべき道

日本、世界に大きな影響をもたらす米中貿易戦争。懸念は日本に忍び寄る孤立主義

三浦瑠麗 国際政治学者・山猫総合研究所代表

「冷戦」のアナロジーに潜む二つの危険

 日本の政治家やメディアが米中間の対立に対して、(しばしば喜んで)早々に「冷戦」のアナロジーを適用しようとすることによる危険は、二方向から生じています。ひとつには、先述した日本経済に対するダメージや逸失利益を過小評価してしまっている危険。もうひとつは、米国の意思を読み誤り、今後の世界の趨勢(すうせい)を読み誤る危険です。

 米国では現在、経済ナショナリズムと安保重視派の連合が時限的に実現しており、同じ中国という対象に異なる目的からアプローチをしています。

 安保重視派が心を砕くのは、まずは覇権争いであり、軍事技術における競争力、そして同盟国の局地紛争における米国の防衛コミットメントでしょう。これに対し、経済ナショナリストはまず産業の競争力を見ます。彼らにとって同盟国ネットワークの存在は中国に対する強みではありますが、必ずしも防衛コミットメントを高める必要性が意識されるわけではありません。むしろ、同盟国への安全提供には値段がついてしかるべきである(だからもっと負担しろ)という考え方になってしまうわけです。

 ただし、中長期的な観点に立てば、米中関係は貿易量からして深い経済的相互依存にあり、冷戦期の米ソの貿易量が互いに総貿易量の1%に届くか届かないかであったことを考えると、「新冷戦」のような状況に移行することはほぼ不可能ではないか、と思われます。

 仮に、もしそのような状況が生じるのであれば、それは世界経済にとっては死を意味します。ですが、そもそも冷戦のような状況が生じるためには、相手に対する根強い不信と自らが抱える恐怖が必要です。かつてソ連の共産主義は伝播(でんぱ)する性質があるとしてたいへんに恐れられていました。しかし、現在はそうでもありません。中国に時代遅れの共産党一党独裁体制が残っていることは、現代の米国社会にはさほど恐怖をもたらさないのです。

米国に対する中国人の好感度は落ちていない

 ここで、中国側の実情についても、幾つか客観的な事実をお示ししたいと思います。

 2018年末~19年年頭にかけて、日本、中国、韓国において、大規模意識調査を行いました。一カ国につき標本数は2000。使用したのはインターネットパネル(中国の場合はマクロミル・チャイナ)です。消費者調査のような体裁で、政治的なことを聞いていることをなるべく意識させない設問設計を通じて実施しました。過去、2014、2017の各年に同じ質問票で調査を実施していて、結果の経年比較もできます。

 以下に簡単に調査の概要を記します。

 調査は割付方式でサンプルを収集しています。年齢は(20~60代)の5段階、居住地(中国の場合はTierⅠ都市、TierⅡ以下都市)は2段階(結果的に30都市程度になりました)、最終学歴(大卒以上、大卒未満)は2段階です。この三つの軸で分けられた「セル」ごとに、100サンプルを確保することとしました。

 まず注目していただきたいのが、中国人の各国別好悪感情です(グラフ1)。

グラフ1拡大グラフ1

 2017年12月の調査と比べると、米国の好感度は4ポイントほど落ちています。しかし、Pew リサーチセンターの調査によれば、米国の同盟国や近隣諸国では、トランプ政権の登場に伴い米国への好感度が半減する例も多く、それと照らし合わせれば、下落率はかなり低いと言えます。

 実は、周辺国である日韓に対する好感度は前年比で8ポイントほど改善しています。他の回答で得られた指標と照らし合わせて考えると、回答者個人の世帯収入の伸び期待や海外との取引による成長期待など、個人の経済的環境がいい場合に、日韓への好感度が高まることが分かりました。

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筆者

三浦瑠麗

三浦瑠麗(みうら・るり) 国際政治学者・山猫総合研究所代表

1980年神奈川県茅ケ崎市生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。専門は国際政治、比較政治。東京大学政策ビジョン研究センター講師などを経て現職。著書に『シビリアンの戦争―デモクラシーが攻撃的になるとき』(岩波書店)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)、『あなたに伝えたい政治の話』(文春新書)、『21世紀の戦争と平和 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか』(新潮社)など。政治外交評論のブログ「山猫日記」を主宰。公式メールマガジン、三浦瑠麗の「自分で考えるための政治の話」をプレジデント社から発行中。共同通信「報道と読者」委員会第8期、9期委員、読売新聞読書委員。近著に『日本の分断―私たちの民主主義の未来について』(文春新書)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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