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29時間で身につく「にわか韓国語講座」(26)

最終回「始まりの終わり」にあたって

市川速水 朝日新聞編集委員

韓国語を1年やってペラペラにならなかった人はいない

 超特急の乗り心地はいかがだったでしょうか。

 やっぱり難しいなあと実感したまま最後まで来てしまった方もいるかもしれません。そもそも完走できなかった方も多かったでしょうね。

 外国語というのは、仕事や旅行で「必要になったから学ぶ」人と(旅行も立派な需要です)、「外国語の勉強そのものが楽しくてやりがいを感じる」タイプがいるのだと思います。韓国語の場合は、そのどちらも満たすことのできる珍しい言語だと感じています。

 私は幸運にも、中国語の留学を1年間した後、40歳を過ぎて韓国に留学しました。私だけでなく、同僚も留学仲間の友人を見て、ほぼこう断言できます。

「中国語を1年間勉強してペラペラになった人はいない。一方で、韓国語を1年やって、ペラペラにならなかった人はいない」

 このコーナーで、いったい何を学んで来たのかを改めて知りたい方は、このWEBRONZAをずっとさかのぼって、2018年9月の第1週から読んでいただければと思います。項目だけであれば、第2週に全体の構成を示す「目次」を列挙しました。ほぼそれに沿ってやってきましたのでご覧になってください。

 「ちょっと寄り道」も今回で46回を数えます。本編の2倍近くになりました。語学の勉強よりも、この無駄話を通じて韓国の文化や社会の構造、韓国人の物の考え方を伝えたいと思ったのも「にわかん」の別な目的でした。

固有語には魅力的な言い回しがたくさん

 ここで改めて、やってきたこととやっていないこと、これからやらなければならないことを整理してみます。

 まず、次の写真を見てください。私が最近、取材のために韓国政府のサイトから引っ張ってきた資料のタイトルです。これが簡単に分かる方は、この「にわかん精神」を十分に身に付けた方です。

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「2018年度 国家イメージ調査 主要内容」

 漢字語と外来語のみ。このような硬い内容は簡単に読めてしまいましたね。

 次に、このタイトルはどうでしょう。

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「僕よりちょっとだけ高いところに君がいるだけ」

 覚えていますか? 第18週で紹介したシン・スンフンのバラードのタイトルです。こちらの方は、漢字語が一つもありません。全部固有語です。恋人に優しく切なく呼びかける口語なのです。

 一つひとつ覚えなければ意味は分かりませんが、この題名だけそらんじて覚えれば、名詞+助詞+副詞+助詞+形容詞+名詞+助詞+名詞+助詞+動詞+助詞と合わせて11の部品を身に付けることができます。

 固有語は日常生活のあちこちにあふれていますし。この歌のタイトルのように、魅力的な言い回しがたくさんあります。これは少しずつ覚えるしかありませんし、これで十分というゴールはありません。

 ただ、韓国語の得意な日本人を見ていると、何かの分野の固有語に突出していたり、悪く言えば偏っていたりします。これは当然です。学校で韓国人の友人と話す機会が多い若者、アルバイト先で野菜や果物、生鮮に詳しくなる人、酒飲みで固有語のメニューをすらすらいえる人など。環境に応じて得意な固有語が違ってきます。これもまた醍醐味です。

「標準語」はどこの言葉?

 ところで、私はたまに「日本の標準語とは、どこの言葉ですか? 東京ですか」と聞かれます。こう答えることにしています。「NHKの定時ニュースを読むアナウンサーの言葉が標準語でしょう。東京にも方言はあるし、民放も時々正しくありません」

 韓国語も同様に、正しい(標準という意味で)言葉を話すのはテレビのニュースぐらいで、実生活で教科書のような言い回しはあまり聞きません。いわゆる標準語、普通の丁寧語、くだけたパンマルをそれぞれマスターできれば最高なのですが、語彙や語尾まで考えると、その広がりにはキリがありません。話す相手の年齢、職場の環境、友人の年格好などで、おのずと「的(まと)」の中心が絞られてくる。そこから同心円大に広げていくのが「使いながら覚える」のに最も適しているのではないでしょうか。

 また、第2の都市、釜山は、それなりにきつい方言があります。「兄貴」がソウルでは「ヒョングニム」ですが、「ヘングニム」と聞こえます。九州に近いため、食べ物や食器に、日本語が定着した言葉も多くみられます。釜山や地方都市が好きな方は、ソウルで学ぶのとは別な「実地研修」も面白いかもしれません。

 もしこれからも韓国語の勉強を続けられる方はこれから立ち止まることも多くあるかもしれませんが、すでに理解度は「日常会話レベル」以上のはずです。あとは実践のみです。知らない固有語、どんどん出てくる新語、外来語、若者言葉についていくのは日本語の世界と同様、大変です。ただ、標準語の基礎は身についたわけですから、自信を持って新しいことに取り組んでください。

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

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