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会談決裂でも居心地は悪くない米朝関係

北の完全な非核化は非常に困難。ほどほどの対峙は両国にとって好都合

高橋 浩祐 国際ジャーナリスト

歓談するトランプ米大統領(左)と金正恩・朝鮮労働党委員長=2019年2月28日、労働新聞ホームページから 拡大歓談するトランプ米大統領(左)と金正恩・朝鮮労働党委員長=2019年2月28日、労働新聞ホームページから

まさかの「ノーディール」だが……

 大方の予想に反し、まさかの「ノーディール」(ゼロ取引)となったベトナムの首都ハノイでの第2回米朝首脳会談。非核化の措置とその見返りの経済制裁の緩和をめぐって、交渉は決裂に終わったが、米朝両国は丸一日も経たないうちに、すでに協議を続けていく方針を示している。

 これは、両国が当面、関係改善の流れを保ちたいとの表れとみられる。もちろん、米朝の今後の交渉には紆余曲折は予想される。だが、今回の首脳会談の舞台となったベトナムとアメリカがかつての敵対関係を正常化したように、朝鮮半島の「脱冷戦」の流れはもう後戻りにできない段階に入ってきている。

北朝鮮とはほどほどに対峙?

 マーケット用語で「ゴルディロックス」(ぬるま湯)という言葉がある。「熱湯」でも「冷や水」でもなく、適温状況の下、相場が上昇して良好なパフォーマンスを生み出す状態のことだ。筆者は今回の首脳会談は決裂したものの、現在の米朝関係は両国にとって、そうした居心地の良いぬるま湯状況にあると思っている。

 トランプ大統領は、目に見える短期的な将来において、北朝鮮に非核化させることは不可能と判断し、北朝鮮の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射を当面中断させるという、「核ミサイル実験のモラトリアム(一時的停止)」を得られれば基本的に良いと考えているのではないか。要は、北朝鮮が2017年の時のようにアメリカ相手に挑発的なことをしなければいいのである。ロシア疑惑などで内政的に窮地に陥るなか、それだけでも前任のオバマ大統領との違いを国内外にアピールできるからだ。

 実際、トランプ大統領は、それを示唆する言動をしきりにみせている。たとえば、ハノイに向けて出発する前の2月24日には、「(核ミサイルの)実験がない限り、我々は満足だ」と述べている。また、今回の米朝首脳会談後の28日の記者会見でも、金正恩・朝鮮労働党委員長が会談でミサイル試射や核実験を今後も実施しないと約束したことを、二度にわたって強調した。

 トランプ大統領が、北朝鮮の「完全なる非核化」に本気でこだわるならば、2017年8月の「炎と怒り」発言まではいかないまでも、制裁の強化などの強硬姿勢をちらつかせるはずだ。内政でも外政でも重要問題が山積するなか、手ごわい難敵の北朝鮮とはほどほどにのらりくらりと対峙(たいじ)し、機会と運にめぐまれればその時に外交ポイントを稼いだり、内政スキャンダルのはぐらかし材料に利用できたりさえすればいいと思っているのではないか。

 こうしたトランプ大統領のスタンスは、金正恩氏にとっても悪くはない。非核化を実現しないうちは国際社会の経済制裁は続くものの、アメリカと交渉を続ける限り、2017年のように朝鮮半島周辺に米空母が3隻も集結するような軍事的な脅威を浴びずにすむ。大規模な米韓合同演習も中止され続ける。それが、金体制の維持に好材料なのは間違いない。


筆者

高橋 浩祐

高橋 浩祐(たかはし・こうすけ) 国際ジャーナリスト

英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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