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会談決裂でも居心地は悪くない米朝関係

北の完全な非核化は非常に困難。ほどほどの対峙は両国にとって好都合

高橋 浩祐 国際ジャーナリスト

朝鮮半島の脱冷戦が不可避なわけ

 こうした状況を可能にするのは、先述したように、朝鮮半島でも脱冷戦が不可避だからに他ならない。筆者がそう考える背景は、アメリカ軍が今後、朝鮮半島のみならず、世界各地から徐々に撤退していく流れが止まらないとみるからだ。

 アメリカ軍が現在海外に置いている基地は約600で、1945年のピーク時の三分の一以下。アメリカ兵の数は1987年段階には217万人だったのが、2017年には128万人となり、30年間で実に約90万人も減っている。

 こうしたアメリカ軍撤退の流れを加速するのが、米連邦政府の公的債務残高の増加だ。3月1日時点で22兆648億ドルとなり、今も過去最大を更新している。とりわけトランプ政権下では、大型減税策で減少した税収を補うため多額の国債を発行したため、債務が膨らんでいる。

 さらに、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と金正恩委員長の「民族愛」や「民族同士」をアピールした南北和解も、朝鮮半島の脱冷戦を後押しするであろう。

幻と化した「明るい将来」

ハノイでの米朝会談を終え、ホワイトハウスに到着するトランプ米大統領=2019年2月28日拡大ハノイでの米朝会談を終え、ホワイトハウスに到着するトランプ米大統領=2019年2月28日
 「私は今日、何か署名しようと思えば100%できた。署名文書は実際に用意していた。しかし、それは適切でない。私は正しく行いたい。私は早急に行うより、正しいことを行いたい」

 トランプ大統領は首脳会談後の記者会見でこう述べ、「バッドディール」より「ノーディール」を選んだと言明した。

 とはいえ、実際には、トップ外交のひずみが今回の首脳会談の決裂をもたらしたのも確かだ。前回2018年6月のシンガポールでの首脳会談には、米朝の緊張緩和をもたらした功績はあった。だが今回は、実務者協議での下からの合意の積み上げがないトップ外交のリスクをもろに露呈した形だ。

 北朝鮮関連専門の英字ニュースサイト「NKニュース」の2月27日の報道によると、今回の首脳会談では、シンガポールでの会談で合意された①新しい米朝関係の構築②朝鮮半島の平和構築③朝鮮半島の完全な非核化④朝鮮戦争で行方不明になったアメリカ兵の遺骨返還――の4項目に加えて、北朝鮮の経済発展を後押しする「明るい将来」の新たな項目が合意文書に含まれる予定だったという。

 これを裏書きするかのように、トランプ大統領やポンペオ国務長官、ビーガン国務省北朝鮮担当特別代表は首脳会談直前まで、北朝鮮に対して体制の保証を約束。非核化をすれば、経済的にも繁栄し、素晴らしい未来が待ち受けているとしきりに強調してきた。今回の首脳会談では、そうした信頼醸成措置の一環として、朝鮮戦争終戦宣言の合意や相手国での連絡事務所の設置も取り沙汰されてきた。

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筆者

高橋 浩祐

高橋 浩祐(たかはし・こうすけ) 国際ジャーナリスト

英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。

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