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会談決裂でも居心地は悪くない米朝関係

北の完全な非核化は非常に困難。ほどほどの対峙は両国にとって好都合

高橋 浩祐 国際ジャーナリスト

埋まらない非核化の定義をめぐる溝

 ところで、今回の首脳会談で明らかになったことが二つある。一つは「非核化」をめぐる定義やその方法をめぐり、両国の間でいまだに深い溝があること。もう一つは、経済制裁が喉(のど)に刺さったトゲのように苦痛になっていることを北朝鮮が事実上認めたことだ。

 トランプ大統領は28日の記者会見で、北朝鮮が寧辺(ヨンビョン)の核施設の廃棄と引き換えに、すべての制裁解除を求めたと説明した。これに対し、北朝鮮の李容浩外相は、トランプ大統領との会談で要求したのは国連安保理制裁11件のうち、2016、17の両年に採択された国民生活に影響が及ぶ五つの制裁の解除だけだと反論した。制裁解除の範囲や制裁解除条件となる非核化をめぐり、両者の説明は食い違っている。

 アメリカ国務省の北朝鮮との実務協議責任者であるビーガン特別代表は1月31日、アメリカのスタンフォード大学の講演で、米朝の間で非核化の定義の溝が埋まっていないことを認めていた。そのうえで、お互いが受け入れ可能な結果を得るために必要な手段について、まず合意すべきだと訴えていた。

 トランプ大統領も28日の記者会見で、金正恩委員長と非核化についてのビジョンが、一年前よりも差が縮まったものの、今もずれていることを認めている。

寧辺の廃棄だけではすまない

米朝首脳会談を終え、会場のホテルを出る金正恩朝鮮労働党委員長(後部座席)=2019年2月28日、ハノイ拡大米朝首脳会談を終え、会場のホテルを出る金正恩朝鮮労働党委員長(後部座席)=2019年2月28日、ハノイ
 一方、北朝鮮側は、自国の核開発の心臓部となってきた寧辺の廃棄をカードに切ったにもかかわらず、何らの見返りが得られなかったことには驚いているに違いない。

 東京都小平市にある朝鮮大学校の李柄輝(リ・ビョンフィ)准教授(朝鮮現代史)は2月23日に都内で行われた講演会で、「朝鮮にとって寧辺は国宝だ。プルトニウム再処理やウラン濃縮はすべて寧辺でやってきた。これを廃棄することは、核を今後バージョンアップするための源泉をも破棄することになる。当面、すでに完成した核は持ち続けるかもしれないが、アメリカもロシアも古くなった核は廃棄していっている。朝鮮が当面核を持ち続けたとしても、10年後、20年後にはそれは使いものにならない」と述べている。

 ただ、北朝鮮には寧辺の核施設以外にも、平壌近郊の千里馬で秘密裏に建設したとされるウラン濃縮施設「カンソン」がある。また、米中央情報局(CIA)によると、北朝鮮の核施設は100カ所にのぼる可能性がある。北朝鮮を観察しているアメリカの北朝鮮分析サイト「38ノース」は、北朝鮮内には核兵器開発の関連施設が100~150カ所あると報告している。また、アメリカのシンクタンク「CSIS」(戦略国際問題研究所)は、北朝鮮には公表されていない弾道ミサイルの基地が20カ所あると推定している。

 今回、トランプ大統領やポンペオ国務長官が寧辺の廃棄だけでなく、こうした他の核ミサイル施設や核弾頭、核兵器、申告リストの提出にまで踏み込み、北朝鮮と安易に妥協しなかったのは、将来の「完全なる非核化」に向け、希望を残すものとなった。北の核ミサイル実験の中止、つまり核ミサイル開発のフリーズ(凍結)で金正恩委員長と手を打っていたならば、ウラン濃縮施設「カンソン」などは手つかずに温存されていたからだ。いずれにせよ、何をどのように非核化するのかは今後も米朝間の大きな問題であり続ける。

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筆者

高橋 浩祐

高橋 浩祐(たかはし・こうすけ) 国際ジャーナリスト

英国の軍事専門誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」東京特派員。1993年3月慶応大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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