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韓国の美容室は近所のことを何でも知っている!

異文化を受け入れる秘訣は「心の余裕」です

藏重優姫 韓国舞踊講師、仁荷工業専門大学語学教養学科助教授

 在日のアイデンティティの形成にはいくつか特徴があると思うのですが、その中の一つに、「日本人ではない」という否定、そして、母国修学など韓国を訪れた人に多いことですが、「現地の韓国人でもない」という「否定」など、「否定」の過程の中で形成される場合があります。

 ですので、その場合、自分の出自の認識が否定的なものから始まりやすい。とてもかいつまんで言いましたが、何にせよ、否定的なアイデンティティを肯定的なものに変化させるには、まず自分の置かれた立場を受け入れる「受諾」という過程を通らなくてはいけません(「日本人よ、韓国人よ、在日コリアンよ、私は私だ!」参照)。

 開き直ることも時には出発点になるでしょう。しかし、この受諾には「心の余裕」が不可欠です。

 今回は、私がハマっている韓国の美容室文化をご紹介しながら、「心の余裕」の無かった私の留学時代など、お話ししたいと思います。

ANURAK PONGPATIMET/shutterstock.com

日韓のヘアスタイルの好みはずいぶん違う

 海外で美容室に行くにはなかなか勇気がいるというものです。その土地独自の流行やシステムがありますから。

 私たちが良いなあと思うヘアスタイルもよく考えると、小さい頃からテレビ、雑誌、道ですれ違う人など、日々の暮らしの中で目にするイメージが蓄積され、知らず知らずのうちに作られてきたものと言えそうです。

 韓国の女の子は言います。「日本の男の子は、どうしてワックスを使うの?ヘン!」

 日本の女の子は言います。「韓国の男の子は、なんで前髪でおでこを隠すの?ヘン!」

 自分の慣れ親しんだ「好み」は、違いに対する違和感や疑問へと繋がっていきます。日本の美容学校で勉強した韓国人の美容師さんに言わせると、韓国ではボリュームのあるヘアスタイル(重い感じ)が好まれ、日本では髪をすいて軽く見せるのが好まれるらしく、全然違うということです。

 そう言えば、こちらで滞在している日本マダムたちからも時々「どこどこの美容室に日本で勉強してきた美容師さんがいるよ!」などの情報が有難がられて飛び交うのを見ると、みんな慣れ親しんだ日本風のヘアスタイルを探しているのでしょう。

 5年前、韓国に移住してきた当時は、日本風に切ってくれそうな、ソウルのイケてそうな美容室を色々と回ったものです。お会計の度に目玉が飛び出るような思いをしましたが、高額を支払っているので、思うようになった!と自分に言い聞かせる。

 そうは言っても、高額ばかり払ってもいられませんので、現在は、家の目の前の美容室に通っています。そこは、近所に住む人たちが気軽に利用する美容室。まさに地元の気軽さ。でもこの「気軽さ」は日本でのそれとは相当違います。

韓国の美容室は近所のことを何でも知っている

 住宅街で且つアパートにくっついて経営している美容室は大抵、女の人が美容師さん兼主人で、ほぼ一人で回しているのが一般的です。

 ある時、私が髪を切ってもらっていると、美容室の前を通りがかった人が、「今から、そこのスーパーに行ってくるのよ。明日、夫の親戚たちが田舎から来るから大変なの~」とわざわざ報告していきます。

 またある時は、おばさんがフラ~っと入ってきて、美容室の洗濯された山と積まれたタオルを畳みながら雑談し、そして「またね~」と言って出ていく。店の主人も「は~い、ありがとう。また~!」

 またある時は、別のおばさんが入ってきて、ソファにデカッと座る。髪を切ってくれ等、何にも言わないから、予約の人かなと思っていると、主人が「コーヒーでも飲んだら?」と聞く。「うん」と言って、自分でコーヒーを入れ、それから世間話が一時間。髪は切りません。

 一番口が空いたのは、フラ~っと店内に入ってきて「コーヒー、飲むね~」と言って、自分で作って飲んでそのまま帰って行きました。その間5分。まるで自分家のキッチンです。

美容師さん兼オーナー。この愛想が良く、可愛い笑顔にみんなついつい心を許してなんでも話してしまうのか。
 ここの美容室だけでなく他の美容室でも似たり寄ったりのようです。私の知り合いの日本人のオンニ(언니:お姉さん)は、「宅配を下の美容室に預かってもらっているの」と言っていました。こんな付き合い方もあるんですね。

 私は最近、この不思議な美容室文化にハマっています。

 色んな人が出入りするところですから、色んな会話が聞けるのも面白いところです。パートナーの愚痴、息子の自慢、スーパーの安売り事情、どこどこのアパートの再開発が始まる、〇〇ちゃんはどこどこの高校に首席で入学した、などなど色んな話が飛び交っています。

 まさに近所情報の宝庫。美容師さんが「近所の人のことは何でも知っている!」と言うので、私もちょっと探りを入れてみました。

 「私は日本から来て、4年生と7歳の子どもがいるんですよ」

 あまり驚きもせず「ここのアパートに住む〇〇ちゃんが、4年生だからあんたとこの子どももその子と知り合いじゃない?」と、正確な情報を被せてきます。まあ、私の韓国語の発音は完ぺきではないので、現地の韓国人と違うことは気づいていたはずです。しかも、アパートに「日本人」は私だけ。多分とっくに私の正体はバレていたんでしょうね。

 今では、お昼時に髪を切りに行くと、「一緒に昼ご飯を食べよう!」とジャジャン麵(黒くて甘めのソースのかかった汁の無い麵料理)をご馳走してくれます。

ジャジャン麵

 ただ、その昔、私はこの人間関係がとても苦手だったのです。

私はかつてカルチャーショックで引きこもりました

 約18年前の私の韓国留学時代です。

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