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決裂の米朝首脳会談から見えたトランプ氏の本質

選挙を常に意識した究極のポピュリスト

前嶋和弘 上智大学教授

 「合意なし」という2月27、28日の米朝首脳会談の結果は世界を驚愕させた。ただ、決裂に至るこの2日間の米朝首脳会談から改めてみえてきたのは、選挙を常に意識した究極のポピュリストというトランプ氏の本質である。

釣り合わない交渉

拡大2月27日夜、握手するトランプ氏(左)と金正恩氏=労働新聞ホームページから
 伝えられている情報を総合すると、そもそも北朝鮮が望む経済制裁解除とアメリカが望む非核化のレベルは全く釣り合わなかった。「寧辺(ニョンビョン)の核施設の廃棄と査察」を見返りに、(「全て」かどうかは米朝での主張のずれはあるが)経済制裁の主要部分の解除というのは、どうしてもバランスが悪い。別の濃縮ウラン施設の存在の有無も拡大会合では話題になったといわれており、北朝鮮にどれだけ本格的な非核化の意図があったのかも疑わしい。

 合意などとても難しかったものの、トランプ大統領は会談両日ともに記者の前で「北朝鮮経済の潜在性の高さ」を繰り返し、発言した。「ファンタステック」など歯が浮くような形容詞を何度も織り交ぜてもいた。トランプ氏にとっては金正恩氏に何とかさらに譲歩させようとしたのだが、全く動かなかったようだ。

外交上の最大のレガシー

 金氏に少しでも譲歩させ、「合意」に至ろうとしたのはなぜか。

 それは、北朝鮮政策はトランプ大統領の過去2年間の最大の政策上のレガシーであり、北朝鮮政策がうまく進むことを支持者にPRし続けることでトランプ氏の2020年の再選に直結するためだ。景気循環のサイクルから考えても今後の景気は期待できるかどうかわからない中、北朝鮮は失ってはいけない再選の切り札だ。

 「金正恩氏とは恋に落ちた」「北朝鮮政策はうまくいっている」「北朝鮮は経済のロケット(のように急成長)となる」といった発言が続いたように、トランプ大統領の北朝鮮政策関連は肯定的なものばかりだ。2019年2月5日の一般教書演説ではトランプ氏は「私が大統領でなければ北朝鮮との戦争だった」とまで言い切ったが、後ろのペロシ下院議長は「そうじゃない」と右手を大きく揺らした瞬間をカメラはとらえていた。

 「北朝鮮政策はうまくいっている。そして今後もうまくいかせないといけない」というのがトランプ氏の本音だろう。

 昨年6月の第一回米中首脳会談前にはアメリカが望んでいたのは「まず北朝鮮が先に非核化」だったはずである。しかし、ビーガン特別代表は、今年1月末のスタンフォード大学での講演でシンガポールの合意事項は「同時的かつ並行的に進展させる」とし、大きな政策変更をにおわせた。また、アメリカ側は「戦争を終わらせる準備ができている」や「北朝鮮政権の転覆を追求しない」などとも発言した。トランプ氏の思いを代弁させ、北朝鮮からの譲歩を生むための方策だった。

 北朝鮮に対する誘い水はこれだけではない。1月29日の上院情報特別委員会の公聴会で「同国が核兵器を完全に放棄する公算は小さい」と指摘したコーツ国家情報長官とハステルCIA長官の意見を、トランプ大統領はツイッターで「ナイーブだ」「学校教育からやり直せ」と、手厳しく打ち消した。おそらく「政権は実は北朝鮮の秘密活動をわかっているが、それでも合意したい。そのためにも非核化しろ」と、政権内の茶番劇を通じて訴えたかったのかもしれない。

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筆者

前嶋和弘

前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学教授

専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後,ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA),メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『ネット選挙が変える政治と社会:日米韓における新たな「公共圏」の姿』(共編著,慶応義塾大学出版会,2013年)