選挙を常に意識した究極のポピュリスト
2019年03月05日
「合意なし」という2月27、28日の米朝首脳会談の結果は世界を驚愕させた。ただ、決裂に至るこの2日間の米朝首脳会談から改めてみえてきたのは、選挙を常に意識した究極のポピュリストというトランプ氏の本質である。
合意などとても難しかったものの、トランプ大統領は会談両日ともに記者の前で「北朝鮮経済の潜在性の高さ」を繰り返し、発言した。「ファンタステック」など歯が浮くような形容詞を何度も織り交ぜてもいた。トランプ氏にとっては金正恩氏に何とかさらに譲歩させようとしたのだが、全く動かなかったようだ。
金氏に少しでも譲歩させ、「合意」に至ろうとしたのはなぜか。
それは、北朝鮮政策はトランプ大統領の過去2年間の最大の政策上のレガシーであり、北朝鮮政策がうまく進むことを支持者にPRし続けることでトランプ氏の2020年の再選に直結するためだ。景気循環のサイクルから考えても今後の景気は期待できるかどうかわからない中、北朝鮮は失ってはいけない再選の切り札だ。
「金正恩氏とは恋に落ちた」「北朝鮮政策はうまくいっている」「北朝鮮は経済のロケット(のように急成長)となる」といった発言が続いたように、トランプ大統領の北朝鮮政策関連は肯定的なものばかりだ。2019年2月5日の一般教書演説ではトランプ氏は「私が大統領でなければ北朝鮮との戦争だった」とまで言い切ったが、後ろのペロシ下院議長は「そうじゃない」と右手を大きく揺らした瞬間をカメラはとらえていた。
「北朝鮮政策はうまくいっている。そして今後もうまくいかせないといけない」というのがトランプ氏の本音だろう。
昨年6月の第一回米中首脳会談前にはアメリカが望んでいたのは「まず北朝鮮が先に非核化」だったはずである。しかし、ビーガン特別代表は、今年1月末のスタンフォード大学での講演でシンガポールの合意事項は「同時的かつ並行的に進展させる」とし、大きな政策変更をにおわせた。また、アメリカ側は「戦争を終わらせる準備ができている」や「北朝鮮政権の転覆を追求しない」などとも発言した。トランプ氏の思いを代弁させ、北朝鮮からの譲歩を生むための方策だった。
北朝鮮に対する誘い水はこれだけではない。1月29日の上院情報特別委員会の公聴会で「同国が核兵器を完全に放棄する公算は小さい」と指摘したコーツ国家情報長官とハステルCIA長官の意見を、トランプ大統領はツイッターで「ナイーブだ」「学校教育からやり直せ」と、手厳しく打ち消した。おそらく「政権は実は北朝鮮の秘密活動をわかっているが、それでも合意したい。そのためにも非核化しろ」と、政権内の茶番劇を通じて訴えたかったのかもしれない。
米朝首脳会談決裂後の記者会見では、明らかに流れた話なのに、トランプ氏は「署名できたがしなかった」といかにも残念そうに記者会見で述べた。つまり、最後の最後まで合意しようと考えたはずである。「未練がましかった」と書くと言い過ぎだろうか。北朝鮮がもう少し譲歩し、例えば、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください