中国に急接近するサウジアラビア
2019年03月06日
アラブの盟主を自認するサウジアラビアが中国に急接近している。両者の接近は、ユーラシア一帯の地政学的条件にとって大きなインパクトを秘めている。
ムハンマド皇太子の訪問は、サウジと中国の関係がこれまでになく強化されたことを内外に印象づけた。
両国は、ムハンマド皇太子が主導する、2030年までにサウジを近代国家にするための国家目標「ビジョン2030」と、習近平国家主席が旗を振る「一帯一路」構想をリンクすることに合意。サウジ最大の国営石油企業サウジアラムコに、中国が製油所の建設などで100億ドルを投資することなどが決まった。
中国が急速に経済成長するなか、世界屈指の産油国であるサウジアラビアの対中輸出額は対米輸出額を凌ぐまでになっている。しかし、これまでサウジと中国は、表面上は大きなトラブルを抱えないまでも、親密とは言えない関係にあった。
特に、もともとアラブの盟主を自認しているばかりか、冷戦時代からアメリカと安全保障と経済の両面で協力関係にあるサウジの側に、中国への警戒感は強かった。
一例をあげよう。中国はこれまでにもサウジに「一帯一路」への参加を呼びかけており、これに応じてサウジ政府は、2017年5月に開催された「一帯一路」国際会議に、エネルギー産業鉱物資源大臣を務めるファリフ王子を出席させた。
中国政府が各国に最高責任者の出席を呼びかけ、ロシアのプーチン大統領をはじめ何人かがこれに呼応したのと比べると、ムハンマド皇太子が出席しなかったことは、サウジの中国に対する伝統的な姿勢を象徴した。
その背景に、自らの縄張りを脅かしかねない「一帯一路」への警戒感があったことは疑いない。今回のムハンマド皇太子の訪中は、この姿勢を大きく転換させるものといえる。
なぜ、サウジアラビアは中国に急接近するのか。そこには、大きく二つの意味がある。
まず、サウジにとって中国に接近することには、困難に直面する中国の足元をみて自分を高く売る効果がある。
トランプ政権との貿易戦争で、中国経済は大きなダメージを受けている。そればかりか、中国は「一帯一路」の立て直しも迫られている。モルディブなど「一帯一路」の沿線国で、中国から援助を受けた独裁的な政府が政変で崩壊するケースが生まれているからだ。
こうした状況のもと、サウジと関係を強化できれば、中国にとってアラブ圏への進出に弾みがつく。つまり、このタイミングでサウジが中国に接近することは、いわば救いの手を差し伸べることに等しく、これは中国に対するサウジの発言力を高める効果がある。
ただし、その一方で、中国との関係強化はサウジアラビアにとっても必要だった。サウジは自分の苦境を克服するために中国に接近したともいえる。そこには三つの理由がある。
第一に、サウジ政府は国際的な孤立を回避する必要に迫られている。
2018年10月に発覚した、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の殺害事件の後、サウジは「表現の自由や人権を無視する国」として国際的な批判にさらされてきた。とりわけ
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