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危機的な世界で「不可欠な存在」になるために・下

日本の国際協力NGOが目指すべき方向性と行動について考える

柴田裕子 特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)緊急対応部部長

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NGOが最終的に目指す世界と現実

 私たちNGO職員が究極的に目指しているのは、NGOの存在が必要ではない世界だ。世界から難民がいなくなる。頻発する災害で困窮する人がいなくなる。そうなれば、国際協力NGOも当然、必要なくなる。だが、理想は理想、現実はそうではない。

 紛争から逃れ難民となる人々、災害により家を失う人々、生活に窮する人々の数は増える一方だ。「危機的な世界で『不可欠な存在』になるために・上」で述べているように、世界はいまや、「戦後最悪の人道危機」にあるともいわれている。残念ながら、NGOが必要ではない世界とは程遠い。

ケニアにおける加盟団体の給水事業を視察する筆者©ジャパン・プラットフォームケニアにおける加盟団体の給水事業を視察する筆者©ジャパン・プラットフォーム
 私がNGOに関わるようになって15年以上がたつ。もともとは企業で働いていたのだが、もっと社会のため、人のために役立つことを仕事にしたいと思いたち、アメリカに留学し、この“業界”に飛び込んだ。アフガニスタンでの駐在経験を皮切りに、シエラレオネやイラク、南スーダン、パキスタン、ハイチなどで人道支援や地震対応などを経験した。

 初めて駐在したアフガニスタンでは、難民として長年イランやパキスタンに逃れていた人々の帰還を支援した。難民となることの過酷さを直接耳にして、衝撃を受けたこともしばしばだった。現地で雇った職員たちも、少なからず紛争の影響を受けていて、ほぼ全員が家族や友人を亡くしたり、自身が難民となったりした経験を持っていた。平和な国からきた私が彼らの信頼を得ることができるのかと真剣に迷った。

 当時、アフガニスタンはまだ内戦の直後で、復興に向けた希望がほの見えた時期であった。しかしながら現在、アフガニスタンは再び内戦状態に陥り、治安の悪化も著しい。復興の難しさをつくづく思う。

「柔軟性」と「オープンな風土」を大切に

 そうした活動をしながらも、私は常にNGOの役割とは何か、本当に人のために立っているのかということを自問し続けてきた。

 NGOで働くうえで私が大事にしていることのひとつに、「柔軟性」と「オープンな風土」がある。

 NGOは、常に率直に意見を言い合い、変えるべきところは変えていく柔軟性を持つべきである。「硬直化」すると、日々、変転する現実に対応できないからだ。

 そのうえで、活動の内容や成果、情報をオープンにし、それを共有して学び合うことが肝要である。実際、事業の失敗や教訓を積極的に公開しているNGOも少なくない。他のNGOや組織はそれを共有し、次の活動にいかしていく。

公平、中立も不可欠な要素

 公平、中立もNGOに不可欠な要素だ。

 NGOが寄り添うべきは被災地にいる人々であり、特定の政府や組織の意図に偏るようなことがあってはならない。さまざまな立場の方々の人権が守られ、多様性を認め合いながら同じ社会で生きていけるよう、常に公平、中立な立場に身を置き、課題の解決に必要とあらば、政府に対してもモノを言うのがNGOの役割だ。

 そんなNGOだからこそできる、NGOにしかできないことがあると、私は信じている。先述したように「戦後最悪の人道危機」にある世界に対応するため、21世紀のNGOはどうあるべきか。本稿では、日本の国際協力NGOが目指すべき方向性と行動について考えてみたい。

歴史が浅く規模も小さい

人口の80%以上にあたる2000万人以上が人道支援を必要としているイエメン。ジャパン・プラットフォームの助成で運営された””子ども広場”で安心して遊ぶ子どもたち=2016年12月22日@ジャパン・プラットフォーム人口の80%以上にあたる2000万人以上が人道支援を必要としているイエメン。ジャパン・プラットフォームの助成で運営された””子ども広場”で安心して遊ぶ子どもたち=2016年12月22日@ジャパン・プラットフォーム
 まず、日本の国際協力NGOが置かれている状況から見てみよう。

 欧米諸国に比べて、日本の国際協力NGOセクターは規模が小さく、歴史も浅い。また、個別の団体の規模も小さいところがほとんどである。

 具体的に言うと、現在日本には約5万以上のNPO法人団体が登録されているが、そのうち活動分野に国際協力をあげている団体は約1万だ(2018年9月30日現在。内閣府NPOホームページ)。東京のNGOネットワーク組織である国際協力NGOセンター(JANIC)の調査(NGOデータブック2016)によると、日本の国際協力NGOのうち、年間総予算額が1億円を超えているのはわずかに17%のみで、最も多いのは年間予算が1000万円未満(33%)の団体である。また、8割以上の団体が有給職員9人未満で運営されている。

 また、日本ではNGO・NPOというものに対する理解や信頼性は決して高いとはいえない。それを痛感した東日本大震災(2011年)の際の経験を、私は今でも忘れない。

NGOとは何者か、認知の低さを痛感した経験

 当時、私は所属していた団体(今とは別の団体)が実施した被災者支援の一貫で、現地に何度も足を運んだ。その団体がどういう事業をするか決めるため、避難所や被災した漁協などを訪問し、聞き取り調査を行っていたときのことだ。「なぜ、支援をしてくれるの?」「支援っていっても、後で見返りとか、返金を求められたりするのか?」と多くの人から聞かれた。衝撃だった。

 NGOとは一体何者なのか? 本当に信頼できる人たちなのか?――

 問いの端々に、そうした疑問が垣間見えた。日本ではNGOという存在の意義がいかに認知されていないかを、あらためて思い知った。

 支援活動をしている最中も、地元の人たちから、「仕事は何しているの?」「こんなに被災地に通っていて、生活は大丈夫なの?」と心配された。NGOはれっきとした仕事である。ボランティアではなく、日々仕事として支援活動に従事している。そうした事実を理解してもらえない経験を少なからずした。

NGOとの関わり方がわからない

西日本豪雨災害では米国国際開発庁(USAID/OFDA)、加盟団体(PWJ)と連携して調査を実施@ジャパン・プラットフォーム西日本豪雨災害では米国国際開発庁(USAID/OFDA)、加盟団体(PWJ)と連携して調査を実施@ジャパン・プラットフォーム
 未曽有の災害となった東日本大震災では、多くのNGO・NPOが現地に駆けつけ、支援活動に携わったこともあり、その認知度は震災前と比べて大きく上がったとも言われている。確かに、それまで寄付といえば、日本赤十字社や国連機関のユニセフに出すものと認識されていたのが、NGOもまた、一般の方や企業から寄付を託される対象になった。

 たとえば発災直後からに現地に出動したジャパン・プラットフォームには、企業や個人の方々から総額70億円を超えるご寄付をお寄せいただき、その後も地元に根差した支援を継続できている。私自身、これまでの活動を通して、政府や一般の人々のNGO・NPOに対する認識が変化していると実感している。

 とはいえ、まだまだ十分ではない。昨年7月、西日本における平成30年度7月豪雨災害の直後、甚大な被害を受けた愛媛県に入った私は、県庁や市町村の担当者から、「いろいろなNPOが情報を聞きに来るが、どのNPOを信用していいか分からない」と聞かれることがあった。地元の住民の中には、「信用できないNPOもいるんでしょう?」と半信半疑の方もいた。NGO・NPOという名称は聞いたことがあるが、何をしているのかよく分からないし、どう付き合ったらいいのか分からない、という向きは、依然根強い。

活動を支える民間からの寄付

 NGOの活動資金は、一般の方や企業からの寄付を基本としている。事業ごとの助成金や補助金もあるが、民間からの寄付や、一般市民の方々からの支援がなければ、組織運営としては成り立たない。

 企業や個人の方々が日々感じている社会課題を解決するため、彼/彼女らに代わって「活動」をするNGOにすれば、共感や関心を持って活動に関わっていただいたり、連携の可能性を見出してもらったりするなかで、その一つの手段として寄付をしていただくのが理想である。ただ、NGOがそれほどまでに十分な共感を得るほどの発信ができているかというと、現状では正直いって心もとない。

 それは、寄付の額にも如実に表れている。

欧米と日本の寄付の差の背景

ロヒンギャ危機にみる難民と移民の諸課題 - グローバル・コンパクトの可能性について話し合ったUNHCR-IOM-JPF共催の円卓会議@ジャパン・プラットフォームロヒンギャ危機にみる難民と移民の諸課題 - グローバル・コンパクトの可能性について話し合ったUNHCR-IOM-JPF共催の円卓会議@ジャパン・プラットフォーム
 欧米の例を見てみよう。たとえばイギリスには、海外の大規模な災害や人道危機において、NGOが活動するために寄付を集めるネットワークとして、DEC(Disasters Emergency Committee)という組織がある。インドネシアのスラウェシ島で昨年発生した地震では、約40億円(2800万英ポンド)の資金が集まり、その資金はDECに加盟するNGO、14団体の活動に使われている。また、スイスには同様の団体としてSwiss Solidarityがあり、スラウェシ地震で約14.5億円(約1300万スイスフラン)を集め、加盟するNGO26団体の活動に使われた。

 これらの団体が、メディアうまくと連携し、現場の状況を世界に効果的に伝えて、ほんの1、2週間で10億単位の寄付を集めてしまう力量には驚かされる。

 翻って日本はどうか?

 ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、民間からの寄付約5500万円に政府からの資金2億3500万円を足して資金とし、加盟NGO42団体のうち7団体が現地で活動している。一般の方、企業からの寄付には心からお礼を申し上げたいと日々感じているが、先に述べたイギリスやスイスと比べると、金額は二桁違う。

 前述したように、メディアや個人の意識が支える寄付文化が進んでいる欧米と、そうではない日本の差が反映しているのだろうが、それだけではない。NGOの活動や存在意義に対する正しい理解と認知が、日本と欧米で大きく違うことが反映しているのは明らかだろう。それこそが、日本のNGOが抱える課題と言える。

 また、「危機的な世界で「不可欠な存在」になるために・上」で触れた「NGO2030」が、2030年に向けたNGO目指すべき方向性を探るために行ったコンサルテーションを見ると、若い世代で認知度が低く、働く場所として魅力的なセクターであると認識されていないといった課題が浮き彫りになった。こうした若い層へのアプローチも今後の課題のひとつであろう。

NGO以外のセクターとの連携強化を

 こうした課題を克服するためには具体的にどうすればいいか。それが「NGO2030」の次なる検討課題であるであろう。ポイントとなるのは、災害や人道資源に取り組むNGO以外のセクターとの連携の強化である。

 世界はいまや、人道危機にまつわる課題が複雑に連鎖し、ひとつのセクターのみで解決できない時代になった。政府や国際機関、NGO、企業、学術界などのセクターが連携を深めなければ、解決は覚束ないのが実情だ(「危機的な世界で「不可欠な存在」になるために・上」参照)。

 そんななか、NGOにはそうしたセクターをリードしていくことがこれまで以上に求められると、私は考えている。

連携のカギになるSDGs

 連携をリードするためのひとつのカギは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」ではないか。SDGsとは、2015年9月に国連サミットで採択された国際的な枠組みで、世界の平和、環境問題、貧困や開発などの諸問題を解決するための共通の目標である。これまで世界の課題解決に積極的でなかった企業にとっても、分かりやすい内容になっており、NGO、市民社会との共通の言語として使われている。

 実はSDGsで掲げられた目標は、これまでNGOが国連などをはじめとする国際機関とも連携しながら長年取り組んできた課題に対応したものである。NGOがリードできる素地は十分にある。多くの企業が積極的に推進する、あるいは推進を模索しているSDGsへの取り組みについて、NGOが課題解決を手がけるアクターとつないで、連携をリードする役割を担うことは可能性なはずである。

 現場に根差しているというNGOの強みをいかすこともありだろう。企業の中には、支援を通じて現場の声やニーズを知りために、イベントや支援活動の報告会に積極的に参加してくださる方々も少なくない。支援を必要としている地域の人々と、自らの技術を支援に役立てたいと願う企業とをつなぎ、具体的な活動を通じてサポートすることも可能だろう。今後も、「NGO2030」としてこれを進めるために、具体的な方法や取り組みを検討していきたいと考えている。

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「ネットワーク団体の強化」も有効

 連携をリードする具体策として、もうひとつ「ネットワーク団体の強化」も挙げられる。ネットワーク団体とは、JANICや各地域にあるNPOセンターなどのこと。個々のNGOの活動情報をまとめて外部に発信したり、NGO間の情報・知見の共有の場となって活動に必要な様々な情報を提供したり、NGOの強化に資する活動を行う。私が所属するジャパン・プラットフォームも、加盟NGOに資金を提供するだけでなく、ネットワーク団体としての機能を持っている。

2016年5月にトルコ・イスタンブールで開かれた世界人道サミットに参加した筆者@ジャパン・プラットフォーム2016年5月にトルコ・イスタンブールで開かれた世界人道サミットに参加した筆者@ジャパン・プラットフォーム
 日本のNGOの特徴である、規模の小ささと組織基盤の弱さを補う一つの方法として、こうした各地域のNGOネットワーク団体を、NGOセクター全体の「共通材」とするというやり方がある。たとえば、個々のNGOでは、職員を教育する余裕がなく、新入社員研修も、限定的か、行われていない団体が多い。NGOネットワーク団体といった中間支援組織がそれを共通して請け負うことで、個々の団体の負担を減らし、全体の底上げにつなげられる。さらに、様々な専門性の強化に資する研修などを実施することで、団体間の学びや連携を促進することも期待できる。

 国際機関からは、世界の支援現場や国際会議において、日本のNGOを見かけることも発言も少ないという指摘を受けている。個々のNGOにメンバーを会議に派遣する余裕がないということが主な要因だが、こうしたことも中間支援組織が代表して参加することで、日本の意見を発信することができる。

 さらに、日本国内には、東京だけでなく各地域に国際協力に関わるNGOのネットワークがある。そうした各地域をつなぎ、連携を強化することもまた、重要であろう。

 いずれにせよ、今後に向けた議論は、まだ緒についたばかりだ。そして、議論を通じて、より多くのNGO、そして様々なセクターと協議を続け、連携を強化していくことが求められる。危機的な世界において、私たちNGOが「不可欠な」存在になるために……。