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米朝会談決裂から見えたトランプ氏の深刻な状況

2度目の会談はなぜ失敗したのか? 再選に向けトランプ大統領が抱える幾つもの課題

中林美恵子 早稲田大学教授

 ベトナムで先月末に開かれた2回目の米朝首脳会談は事実上、決裂して終わりました。トランプ米大統領は今回、なぜ合意を避けたのでしょうか。アメリカ政治に詳しい中林美恵子・早稲田大学教授に聞きました。(聞き手 朝日新聞WEBRONZA編集長・吉田貴文)

米朝首脳会談の初日、2月27日夜に歓談するトランプ米大統領(左)と金正恩・朝鮮労働党委員長=労働新聞ホームページから 拡大米朝首脳会談の初日、2月27日夜に歓談するトランプ米大統領(左)と金正恩・朝鮮労働党委員長=労働新聞ホームページから

トランプ大統領を取り巻く環境が激変

 2月27、28の両日、ベトナム・ハノイで開かれた米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の2回目の米朝首脳会談が事実上、「決裂」で終わったことは、トランプ米大統領を取り巻く政治環境が、シンガポールで1回目の米朝首脳会談が開かれた昨年6月とは大きく変わっている実情を印象づけました。

 いったい何が変わったのか? それは、アメリカ国内の政治状況、とりわけ議会をめぐる状況の変化に他なりません。

成功体験となった1回目の首脳会談だが……

拡大中林美恵子さん
 昨年6月、米議会は上下両院とも共和党が多数を占めていました。2016年の米大統領選でロシアが「トランプ陣営」に肩入れをしたとされる「ロシアゲート」は、当時もくすぶっていましたが、共和党が議会をコントロールしていたため、議会の追求も抑えられていました。

 そんななか、トランプ大統領が断行した史上初の米朝首脳会談は大いに効き目を発揮しました。トランプ氏は、核兵器を持とうとする北朝鮮に待ったをかける平和の使者、ノーベル平和賞にも値するリーダー、というイメージづくりに成功し、支持率も上がりました。ロシアゲートがもたらすダメージを払拭する巧みなハンドリングでした。

 その成功体験をトランプ大統領は引きずっていました。連邦政府の一部閉鎖による支持失墜や、メキシコとの間の壁建設が民主党の反対で進まず非常事態宣言を出さざるを得なくなった窮状を打開するため、「二匹目のドジョウ」を狙って2度目の米朝首脳会談に前のめりになりました。手柄を挙げようと、北朝鮮の非核化のハードルも大幅に下げました。


筆者

中林美恵子

中林美恵子(なかばやし・みえこ) 早稲田大学教授

早稲田大学教授。米マンスフィールド財団名誉フェロー。大阪大学博士(国際公共政策)、米ワシントン州立大学修士(政治学)。元衆議院議員。経済産業研究所研究員や財務省財政制度等審議会委員など歴任。米国在住14 年のうち 10 年間は米連邦議会上院予算委員会の連邦公務員(共和党)として国家予算編成を担う。跡見学園女子大学准教授、米ジョンズ・ホプキンス大学客員スカラー、中国人民大学招聘教授等を経て現職。『トランプ大統領はどんな人?』『トランプ大統領とアメリカ議会』『『グローバル人材になれる女性(ひと)のシンプルな習慣』『オバマのアメリカ・どうする日本』(共編著)等多数。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです