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小手先ではない虐待対策を。それは政治の務め

政策を作ったのに、想定できたのに、防げなかった悲しい事件。もう繰り返したくはない

三輪さち子 朝日新聞記者

想定していたのに防げなかった

 結愛ちゃん事件の国の死亡検証結果には、以下のように問題点が挙げられている。

・傷やあざがあり、暴力が繰り返されているのに、児童相談所は、医師や弁護士に相談せず、施設に入所するという措置をとらなかった。
・養父から実母へのDVの疑いがあったのに、それを踏まえたリスクアセスメントができていなかった。
・転居した時、児童相談所同士の引き継ぎが十分なされなかった。

 また、心愛さん事件では、千葉県の担当者が議員連盟の会合でこう説明している。

・緊急性が高いとは判断していなかった
・父親が児童相談所の関わりを強く拒否していた。学校にも行かせなくなる恐れがあるので、家庭訪問をしなかった

拡大栗原心愛さん
 増え続ける虐待問題に、対策が追いついていない。目黒区と野田市の二つの事件は、藤林さんが指摘するように、想定もしえないことが起きたのではなく、想定していたのに防げなかった、と私は思う。

金がない、人が足りない

 なぜ対策が進まないのか。

 昨年12月26日。厚労省の大きな会議室で、有識者が集まる会議を取材していた。社会保障審議会の社会的養育専門委員会。ここでの議論を踏まえて提言をまとめ、厚労省は改正法案を打ち出すことになる。そうした節目の会議でもあった。

 しかし、しばらくして、ペンを動かす手が止まってしまった。なぜ、虐待死亡事件がいつまでもなくならないのか、その一端を見た気がした。

 議論で、意見が割れていたのは、①児童相談所に常に弁護士や医師の配置を義務づけることと、②中核市に児童相談所の設置を義務づけること、の2点だった。踏み込んだ対策が必要だと訴える人もいたが、地方自治体の関係者らからは、「財源がない。人が足りない」との反対論が出ていた。

 金がない、人が足りない、は、何かをしない理由の常套句だ。

 財源も、人手も、優先順位しだいのはずだ。兵庫県明石市は、職員への暴言で市長が辞職したが、この春、中核市として全国で3番目に児童相談所を開設する。子ども関連予算を5年間で倍増し、人口も税収も増えているという。

 財源がない、人が足りない、といってやろうとしないのは、子どもを守ることの優先順位が他よりも低いと言っているのと同じではないだろうか。自治体任せにして、十分な予算を充てない国の姿勢もしかりだ。

 日本は、もともと子どもに対する支出は少ない。虐待されたり、親と一緒に暮らせなかったりする子どもたちへの優先順位はさらに低い。

 このままでは、事件がまた繰り返されるのではないか――。

 厚労省の有識者会議で重たい気持ちを抱えたまま、山梨県立大教授の西澤哲さんを訪ねた。虐待を受けた子どもの心理的ケアが専門であり、国の虐待死亡事例の検証委員会のメンバーを務めるなど、国に意見を出してきた専門家だ。

 子どもが毎年、これだけ死んでいる。本当は、虐待によって死んでいる正確な数すらわからない。そこで、ドラスティックな変革をしなくてどうするの?と思うけれど、「ものごとは少しずつ少しずつ、既成事実を積み上げて変えていく」というのが公務員のやり方なのだろう、というのが西澤さんの意見だった。何度も腹を立てたり、やりあったりして、こうした心境になった、といった。

 だからこそ、変えるのは、政治家であり、国民だと、西澤さんは言う。

 改革に及び腰な官僚に対して、政治家が「もっとやれ」と迫る姿勢は、この間、たびたび目にした。

 ただ、まだ足りない。

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筆者

三輪さち子

三輪さち子(みわ・さちこ) 朝日新聞記者

2006年、朝日新聞社に入る。横浜、徳島総局を経て2011年から政治部。民主党政権では事業仕分け、自民党政権では自民党幹事長番、防衛省などを担当。2017年から世論調査部。オピニオン編集部を兼務。関心のあるテーマは虐待・貧困などの「子どもをめぐる問題と政治」。趣味はカバン作り。

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