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米朝決裂、トランプは北朝鮮に関心失う可能性も

トランプの「ビッグディール」で米国に広がる強硬論。北朝鮮は強面の顔を見せるのか…

園田耕司 朝日新聞ワシントン特派員

金正恩氏は決裂後も諦めずトランプ氏へメッセージを託した

 その後の李容浩外相ら北朝鮮側の記者会見や米国務省高官の証言、米メディアの報道などで首脳会談の全貌が次第に明らかになってきた。話を総合すると次のようなものである。

 正恩氏が制裁解除の要求を伝えたのは、2月27日夜の夕食会の席上だった。

 北朝鮮の要求は、正確に言えば、トランプ氏がいう「全面解除」ではなく、国連決議に基づく制裁11件のうち、5件という「一部解除」(李容浩外相)だった。

 ただし、5件を解除すれば、北朝鮮は石炭・鉱物・海産物の輸出ができるようになるうえ、石油を輸入できるようになる。米側は「基本的には全面解除」(国務省高官)と受け止めた。

 ここでトランプ氏が正恩氏の逆提案したのは「ビッグ・ディール(大きな取引)」だった。

 寧辺核施設のみならず、秘密のウラン濃縮施設「カンソン」を含むすべての核関連施設の廃棄をすれば制裁解除に応じる――。

 トランプ氏は正恩氏にこう迫った。しかし、正恩氏は、米朝両国でまだ十分な信頼関係が構築されていないとして、トランプ氏の逆提案を断った。

 首脳会談は2月28日の拡大会合で正式に決裂し、昼食会はキャンセルとなった。

 しかし、トランプ氏がメトロポールホテルを出ようとしたところ、北朝鮮の崔善姫外務次官が慌てて米代表団のもとに来て、正恩氏のメッセージを渡した。ただ、そのメッセージでは相変わらず寧辺核施設のどのエリアを廃棄するのかはっきりしない。

 崔氏は正恩氏のもとに戻り、「施設のすべてが含まれる」という正恩氏の新たなメッセージを携え、米代表団のもとを再び訪れた。しかし、米側はその回答に満足せず、首脳会談が再開されることはなかった。

拡大2019年3月5日未明、平壌駅に到着した金正恩朝鮮労働党委員長の特別列車=労働新聞のホームページから

 正恩氏が交渉再開の最後の努力をしたというのは、正恩氏にとってそれだけ必死にならざるをえない理由があったとみられる。

 トランプ氏は歴代米大統領の中でも突出して北朝鮮に宥和政策をとっている大統領だ。しかし、「ロシア疑惑」などの数々のスキャンダルに直面しているトランプ氏は2020年大統領選での再選は見通せず、3度目の首脳会談が行われる保証はない。仮に、大統領選で新しい大統領が誕生すれば、トランプ政治の反動でこれまでの対北朝鮮政策が大きく変更される可能性が高い。

 今回、のちの米政権に対しても有効性をもつ大統領の署名入りの合意文書が作成できなかったのは、北朝鮮にとって大きな痛手だったのは間違いないだろう。

 実は、今回の北朝鮮側の要求はすでに首脳会談前、米国務省のビーガン北朝鮮政策特別代表と北朝鮮の金赫哲対米特別代表による実務者協議で、北朝鮮側が提案し、ビーガン氏が難色を示していたものだった。実務者協議でいったん断られた提案が首脳会談で米側が受け入れなかったのは当然だったとも言える。

 米朝交渉の動向に詳しいワシントンの外交筋は、正恩氏の「誤算」が生じた理由は、①正恩氏はトランプ氏ならば、実務者協議で拒否された案でも受け入れると考えた②金赫哲対米特別代表がビーガン氏ら米側の実務者協議で伝えた意見を正確に正恩氏に伝えていなかった――のどちらかだろうと分析している。


筆者

園田耕司

園田耕司(そのだ・こうじ) 朝日新聞ワシントン特派員

1976年、宮崎県生まれ。2000年、早稲田大学第一文学部卒、朝日新聞入社。福井、長野総局、西部本社報道センターを経て、2007年、政治部。総理番、平河ク・大島理森国対委員長番、与党ク・輿石東参院会長番、防衛省、外務省を担当。2015年、ハーバード大学日米関係プログラム客員研究員。2016年、政治部国会キャップとして日本の新聞メディアとして初めて「ファクトチェック」を導入。2018年、アメリカ総局。共著に「安倍政権の裏の顔『攻防 集団的自衛権』ドキュメント」(講談社)、「この国を揺るがす男 安倍晋三とは何者か」(筑摩書房)。メールアドレスはsonoda-k1@asahi.com

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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