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透析中止を考える(下)現時点の枠組みを超えて

情緒的な報道が目立つ日本。「患者の権利」について欧米や韓国、台湾は…。

田中美穂、児⽟聡

*この記事は「透析中止を考える(上)現在の枠組みにおける検討」の後編です。

公立福生病院=2019年3月7日、東京都福生市

英米の自己決定権/治療拒否権

 ここまで日本の状況について述べてきたが、ここで諸外国の状況を概観したい。

 欧米では、患者の自己決定権や治療拒否権を法律・判例や患者憲章等で保障している国が多い。例えば、米国では、1973年に米国病院協会が「患者の権利章典」(現在は「患者ケアパートナーシップ」)を採択し、治療計画について話し合う過程で、患者には治療を拒否する権利があり、医師は治療を拒否した場合の医学的結果を説明するという点を明記した。その後、1991年に施行された連邦患者自己決定法が、患者には治療を承諾したり拒否したりする権利があること、医療機関にはそれらの権利を患者に書面で知らせる義務があることを規定している(生命倫理事典ほか)。

患者ケアパートナーシップ
医療機関に入院した際、一般的な治療に関する同意書に署名します。手術や実験的治療等については、計画されている内容に対する理解や同意を書面で求められます。この過程はあなたが治療に同意したり拒否したりする権利を守ります。あなたの医師は提案された治療を拒否した場合に起きうる医学的結果について説明するでしょう。
連邦患者自己決定法
患者には、医療行為を承諾・拒否する権利や事前指示を作成する権利があることを、書面で説明するよう、公的医療保険制度に参加しているすべての医療機関に義務付けた。

 また、英国でも、ブランド判決として知られる植物状態患者の治療中止の判例により、「判断能力のある成人患者は、たとえ治療を拒否した結果、自分に危険が及ぼうとも、あるいは、死亡しても、治療を拒否する決定を行うことができる」という治療拒否の権利が保障されている(参照

NHS憲章(イングランド)
あなたには、提供される治療を受け入れるか拒否する権利があり、あなたが有効な同意を与えたのでない限り、いかなる検査も治療も提供されない権利がある。
患者の権利と責任憲章(スコットランド, 2011年患者権利[スコットランド]法に基づく)
提供される情報を理解し、提供されるケア・治療や適切な代替手段について自分自身で意思決定できる場合、いかなる治療、検査、スクリーニング手法や研究参加についても、それを承諾するか拒否する権利がある。

 もし、今回の事案がこうした治療拒否権が認められている国で起きたらどうだろうか。本人に判断能力があり、透析をやめたらどうなるかを十分に理解したうえで決めたのであれば、たとえ終末期でなくとも、治療を拒否することが可能だろう。

 実際にこうした国々では透析治療を中止する人たちも一定の割合で存在する。米国の2015年の透析患者統計によると、死亡した透析患者のうち透析治療の中止による死亡割合は18%であった。日本透析医学会元理事長の大平整爾氏の論文などによると、カナダでも20%程度を占めているという。

 日本の1%程度と比べるとその割合はかなり大きい。

アジアの状況

 では、アジアではどうだろうか。

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