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アメリカが対中国問題を解決できない本当の理由

トランプ政権は何を目標に貿易戦争と技術覇権争いの交渉をすればいいのか

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

継続が困難になった韜光養晦

 英エコノミスト誌も書いているように、専門家の間では、習主席の挑戦は早過ぎたのではないかとの見方が少なくない。

Arthimedes/shutterstock.com拡大Arthimedes/shutterstock.com
 ただ、14億の人口を前提に雇用を考えれば、国内の公共事業のみならず、一帯一路によって海外での職を提供することも必要となる。また、沿岸部に住む5億人を中心に中産階級が世界中を旅行し、民間企業なども世界で活躍するようになると、政府の意思にかかわらず、韜光養晦を継続することが難しくなるのも自明の理である。それが米国で顕著に現れている。

 米国がこうした中国の実態を意識し始めた例は、2015年9月の習主席による訪米時にも見られた。シアトルとワシントンの訪問を終えた習主席は、国連総会に出席するべくニューヨークに移動した。その際、それまで米大統領の定宿であったウォルドルフ・アストリアホテル(WAホテル)に宿泊したのである。

 これは、中国の安邦生命がWAホテルを買収したからで、中国にすれば、安倍首相が日系のキタノホテルに泊まった程度の意味しかない。しかし、WAホテルの機能(万一の場合の退避経路など)と歴史、位置づけを知る米国人にすれば、オバマ大統領がロッテの買収したニューヨーク・パレスホテルに泊まり、WAホテルがロビーからレストランに至るまで中国一色となったのは、一大事であった。これは三菱地所がロックフェラーセンターを買収したどころの騒ぎではなかったのである。

米中問題な内政にも影響する

 米国に住む中国人が増え、大学の中国系学生比率も高まってその制限さえ考えられようになるなど、米国における中国のプレゼンスは確実に増している。江主席がクリントン大統領に「中国が米国に勝つ材料」として挙げたと言われる米国への移民の数は、その当時の2倍(1980年の6倍)の2.4億人だ。ワシントンにおけるロビー活動も、日本が企業別にやるのが基本なのに対し、中国勢は横の結びつきやシンクタンクとの連携など、あらゆる形で活動を拡大している。APECや世銀・IMF総会の出席者も圧倒的に中国勢が多い。

 日米貿易摩擦では、日系輸出企業の対米工場進出と、日本の輸出依存型経済を転換させることに主眼をおけばすんだのに対し、米中貿易戦争においては、足許および長期的な貿易赤字解消にくわえ、米国における中国のプレゼンスをどう管理するかを目的とせざるを得ない。つまり、外交的に貿易不均衡を是正する合意を成立するだけでは足らず、内政的に中国をどう扱うかまで視野にいれた交渉をしなければならない。単に輸入や工場進出を求めればいいわけではないのだ。

 そして、これこそがトランプ政権が考える米中貿易戦争の本質なのである。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

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