沢村亙(さわむら・わたる) 朝日新聞論説委員
1986年、朝日新聞社入社。ニューヨーク、ロンドン、パリで特派員勤務。国際報道部長、論説委員、中国・清華大学フェロー、アメリカ総局長などを経て、現在は論説委員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「ロシアとの共謀はなかった」に勝ち誇るトランプ氏。「追い風」はいつまで吹くのか
1年10カ月に及んだ「ロシア疑惑」の捜査が終わった。「ロシアとの共謀はなかった」とした結果は大統領再選に向けたトランプ政権への大きなプレゼントになった。感情をたかぶらせ、反転攻勢にのめるトランプ氏。だが、そこにある「落とし穴」にどこまで気づいているのだろうか。
ミシガン州グランドラピッズの町の中心にある1万1千人収容のアリーナに3月28日、久々にこのコールがこだました。
――Drain the Swamp!(ヘドロをかき出せ)」
ヘドロとは、首都ワシントンに沈殿する、庶民の生活には目をくれず、既得権にまみれた主流の政治家たちとエリート官僚のことを指す。2016年の大統領選の最中、トランプ氏自身が「政界アウトサイダー」であることを逆手にとって熱心に繰り返したマントラである。
グランドラピッズは、商都シカゴと自動車の都デトロイトの中間にある。かつては自動車関連産業で潤ったが、ご多分にもれず製造業はしめり気味だ。労働者層の不満を足がかりに大統領の予備選を勝ち上がったトランプ氏が、選挙戦を締めくくる遊説をした場所でもある。
ロシア疑惑をめぐるマラー特別検察官の報告書がバー司法長官に提出された後、初めての政治集会の開催地になったこの町で、トランプ氏は、ほえた。
「ロシア〝魔女狩り〟は選挙に負けた連中が、無実のアメリカ人をはめて、違法な手段で権力を奪い取ろうとした企てだ!」
確かに公表されたマラー氏の捜査報告書の概要(※)は、ロシアによる選挙工作にトランプ陣営が共謀したり協力したりした証拠はなかったとした。だが、大統領が捜査をやめさせるよう圧力をかけたかどうかが問われた司法妨害については、「大統領が犯罪をしたかの結論は出さないが、潔白だとするものでもない」と明記。その上でバー司法長官が根拠を示さないまま「証拠不十分」と不問に付した。
トランプ氏の指名で就任したばかりの新司法長官の「政治裁量」をおおいににおわせる、まさしく「灰色」の内容だった。
※バー司法長官が議会に提出したマラー特別検察官の報告書の概要(ニューヨーク・タイムズ紙のホームページから)