沢村亙(さわむら・わたる) 朝日新聞論説委員
1986年、朝日新聞社入社。ニューヨーク、ロンドン、パリで特派員勤務。国際報道部長、論説委員、中国・清華大学フェロー、アメリカ総局長などを経て、現在は論説委員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「ロシアとの共謀はなかった」に勝ち誇るトランプ氏。「追い風」はいつまで吹くのか
だが、トランプ氏はそんな細かい話はお構いなしである。
集会では「完全な潔白」を主張し、「Collusion Delusion(共謀という妄想)は終わった」と叫んだ。そして返す刀で、疑惑を追及してきた民主党、連邦捜査局(FBI)などの司法機関、そしてメディアを激しくののしった。
〝政治の主流から忘れ去られてきたあなたたちを代弁して大統領になったこの私を、利権にまみれた政治家とエリート官僚、腐ったメディアが追い落とそうとした。しかし、私は負けなかった〟
そう言わんばかりのレトリックは、3年前の大統領選をほうふつとさせる。それはロシア疑惑の捜査終結を、2020年の大統領再選に向けた「武器」に最大限、利用しようとする「計算されたショー」(ニューヨーク・タイムズ紙)といえた。
会場からはこんなコールもわいた。
――Four more years!(あと4年)
その数日前の日曜日、バー司法長官がマラー氏の捜査報告書の概要を議会に届けた時、トランプ氏は家族や側近の高官たちとフロリダ州の別荘にいた。
米メディアによると、トランプ氏は当初、司法妨害に関しては「シロ」としなかった報告書の内容に不満をあらわにした。だが、側近から報告書についての説明を聞き、ここは徹底して「完全な潔白」路線を貫くことで反転攻勢に打って出る決意を固めたという。
トランプ氏は側近から、「勝ち誇った態度は控えるように」という助言も受けた。だがその効果は1時間ともたなかった。
ワシントンに戻る直前には、記者に「違法な〝引きずり下ろし工作〟は失敗した」と、民主党に反撃する考えを示唆。その晩、ホワイトハウスに着いたときには、さらに高揚した様子で言った。「アメリカは地球で最も偉大な場所だ」
トランプ氏にとってロシア疑惑は、単に自身や家族、陣営幹部が捜査対象になった屈辱以上に、「ロシアに当選させてもらった大統領」というイメージがつきまとい、大統領としての「正統性」にも疑問符がつけられてきた点で、とりわけ耐えがたいものだった。それが「晴らされた」喜びはひときわ大きかった。もっとも、マラー氏の捜査報告書はロシアによる大統領選への干渉工作はあったと認定しているのだが……。